10月25日,都内のホテルで会合(発起人会)が開かれ,ある組織の発足が正式に決まった(ニュースはこちら)。コンサルタントやソフト・ベンダーの社員をはじめ,経済産業省からも数人が出席していたこの会合で,設立が決まったのは,「共通XML/EDI実用化推進協議会」という任意団体で、12月14日に設立総会が開かれる。この名称をはじめて耳(目)にした方も多いことだろう。

 だがこの協議会がその目的を達成すれば,日本の産業界,特に中小企業の業務効率は一気に向上するはずだ。生産性が向上し,企業の業績アップにも大いに貢献するに違いない。発起人には,富士通エフ・アイ・ピー,TIS,NECソフト,マイクロソフト,日立情報システムズ,富士ゼロックスといった企業が名を連ねている。

 その設立目的とは,「企業規模にかかわらず利用できる,共通仕様のEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)システムの構築とその普及促進」である。今後は,仕様の確定や実証実験を進め,大企業から小企業まで利用できるEDIにおける共通プラットフォームを確立し,普及を促していくという。

 EDIとは,要するに受注・発注作業の伝達手段をこれまでファクスや郵送から,ネットを通じた電子データのやり取りに置き換えるものである。広く言えば,電子メールにデータを張り付けて送信してもEDIになる。だが,ここでいうEDIは狭義のもの。共通化されたプラットフォーム上で,企業の規模や業種を問わず,加盟した全社とデータをやり取りできることを指す。

中小企業の現場ではファクスによる受発注が多い

 ここでお聞きしたい。みなさんは,ファクスを今月,何枚受け取って,何枚送信しただろうか?

 私はと言えば,編集部あてに送られてくる発表会等のお知らせ,各種リリースを別にすれば,ほとんど利用していない。実際のところ,純粋な連絡手段として見た場合,ファクスはもはや「なくても困らない」存在になっている。

 しかし,SMB(small & medium sized business)と呼ばれる中堅中小企業の現場では,ファクスでの受発注が極めて多いのが現実だ。ある企業の社員によると「社数で言うと,ネットを通じて簡単に受発注できるのは20%くらい。80%の企業とは,いまだファクスでのやり取り」と言う。「BtoB(企業間)のやり取りは,この5年でネット化がかなり進んだだろう」と思っていたので,これには驚いた。

 しかも,この会社が特に“遅れている”わけではないらしい。ほかにも何人かに聞いてみたのだが,どこも大差はなかった。中小企業診断士でコンサルタントの川内晟宏(あきひろ)氏によると「有名大企業とそのすぐ下の下請けの間は,相当程度にEDIが普及している。しかし,そこから下へ行けば行くほどEDIは普及しておらず,ファクスの割合がぐんと増える」と解説する。

 もちろん有名大企業の一次下請けは,下請けとは言っても大企業か中堅企業である。つまり,中堅企業まではEDIが普及し,受発注作業の簡素化やコストダウンが実現している。だが,その下の中小企業になると,経営者の意識の高い一部の企業を除いては,10年前とさして変わらず旧態依然としている,というわけだ。

 「ファクスで用が済んでいるなら,それでいいじゃないか」という考え方もあるだろう。しかしEDIの普及には,大きな意味がある。ファクスだと,発注側は書類を作成して印刷し,それを送信するという手間がかかる。受注側でも,ファクスを受け取って,それを担当者に回送し,社内システムに入力するなどの余計な手順を踏むことになる。

 しかも,受発注の際は相手にきちんと届いたかどうか分からないので,電話などで確認する作業も必要になる。いずれも手間暇がかかるがゆえに,受発注にまつわる作業の担当者が必要になる。受発注システムに慣れた方や,電子メールを使いこなしている人の眼には,壮大な労力のムダに映るのではないか。

「いったい何社のEDI仕様に対応すればいいのか」

 EDIの普及が進まない原因は,中小企業側の意識の低さだけにあるわけではない。むしろ,元請けの大企業側に大きな問題がある。

 実は,多くの中小企業は,EDIにうんざりしているのである。なぜなら,やや大げさな言い方をすると,発注元の数だけEDIネットワークに加盟しなければならないからだ。取引先のメーカー系列ごとに異なるEDI仕様に対応せざるを得ず,困惑している中小企業は多い。

 しかも企業によっては,EDIネットワークの利用料を取る。月額にして3000円~1万円程度であることが多い。「これで便利になって,ウチからの受注もさっと来るようになるんだから,そのくらい負担しろ」ということなのだ。

 だが,複数社の系列企業と取引している中小企業にとっては,たまったものではない。「負担が増えるならファクスの方がいい」と,主要数社のEDIにだけ加盟して,ほかとはファクスでやり取りする中小企業が圧倒的に多いのだ。

製造業をターゲットに,2006年の6~7月には実証実験開始

 協議会では,こうした阻害要因を取り除くために,共通仕様を確定・普及させて契約書や文書の電子化を進める。既に,製造業を最初のターゲットに定め,ソフトの開発を進めている。2006年の6~7月には実証実験に入る。

 ネット関連の知識に乏しい,中小企業向けの配慮も忘れていない。まずは,Webブラウザで利用できるように,ASPサービスでの提供を検討する。また,技術力のない企業に対して,直接導入支援をするべく,今後議論を重ねていく計画だ。

 果たして,共通のEDI仕様を普及・定着させようというこの試みは,成功するのかどうか。推進協議会の実証実験部会リーダーでもある川内氏は「この協議会が失敗したら,日本ではもうEDIの共通仕様は永遠に実現できない。そのくらいの意気込みでやる」と決意を示した。取引先網の末端までEDI化が進めば,コスト削減や納期短縮などの効果を見込めるので,大企業が独自方式から協議会の共通EDI方式へ移行することも現実味を帯びてくる。

 残念なのは,政府による後押しが弱いこと。共通XML/EDI実用化推進協議会は,全くの任意団体であって,政府からは資金が出ていない。冒頭に記したように,発起人会には経産省や中小企業庁からも何人か出席していたが,意地の悪い見方をすれば,お金を出していないことに対する“埋め合わせ”のようにも受け取れる。RFID(Radio Frequency Identification,無線ICタグと呼ばれる)のような最先端の技術だけではなく,EDIのような土台作りにもぜひ力を入れてほしいと思う。

本間 康裕=IT Pro SMB+IT