米マイクロソフトは,企業向けのライセンス制度「ソフトウェア・アシュアランス(SA)」を改定し,「ソフトウェア・アシュアランス2006」として,2006年3月から提供開始する(関連記事)。SAとは,3年の契約期間の間,ライセンス料金を前払いする代わりに,契約期間内に登場する新バージョンを無料で利用できるようにする制度のこと。2001年10月に開始した。

 改定の要旨は,SA導入企業だけが得られる特典を増やしたことだ。具体的には,次期WindowsのSA導入企業専用版「Windows Vista Enterprise」などの専用ソフト,専用のWebページによる24時間年中無休のサポート,Office製品の導入支援コンサルティング,Office活用のためのトレーニングなどである。すでに「記者の眼」でも取り上げているように(関連記事),これらの特典自体は,SAを導入する企業に有用だろう。

 その上で,マイクロソフトがSA導入企業に対して負っている,「責任」とでも言うべき点を改めて指摘しておきたい。それはSAを導入するに足りる魅力を持った新バージョンの製品を,安定的に出荷することだ。

SA導入企業の不満を抑える

 マイクロソフトにとって,今回の改定には二つの狙いがある。一つは,決して利用率の高くないSAの採用を,ユーザー企業に促すことだ。

 登場した当初から,SAはユーザー企業に不評だった。マイクロソフト製品の新バージョンを頻繁に購入するユーザー企業にとっては,SAを利用した方が有利になる。しかし,そもそも新バージョンが出るたびに購入するユーザー企業はそれほど多くないはず。その上,バージョンアップ期間が3年より長い企業にとっては,新規にライセンスを購入するより割高になってしまう可能性が高いからだ。

 マイクロソフトはSA導入企業の割合を明らかにしていないが,日本法人でマーケティングを統括するアダム・テイラー執行役 常務によれば,「欧米に比べ,SA導入企業の割合はかなり少ない」という。「マイクロソフト製品のバージョンアップだけでなく,導入後のサポートや企業内での活用支援,管理コストの削減など,ソフトウエアのライフサイクルを通じた価値を提供できる。今回の特典により,(SAの)魅力がさらに高まったと自負している。これをユーザー企業に訴求していきたい」(テイラー常務)

 もう一つの狙いは,すでにSAを利用している既存ユーザーの不満を抑えることだ。SAを導入する企業にとっては,契約期間内に新バージョンが登場することが前提だった。しかしSAの発表以後,マイクロソフトはメジャーなソフトに関して,それ以前の製品サイクルを維持できなかった。

 SQL Serverに関して言えば,SQL Server 6.5が1996年,同7.0は1998年末(日本語版は1999年初め),現行バージョンである同 2000は2000年と,約2年ごとに新バージョンを出荷してきた。これに対して次期バージョンであるSQL Server 2005の出荷は,2005年末になる見通し。実に5年もの間,新バージョンが登場しなかったわけだ。

 Windowsに関しても,これまでは1995年(Windows95),1998年(Windows98),2000年(Windows 2000),2001年(Windows XP)とコンスタントに出荷してきた。この間にはWindows NT系列も出荷している。一方,次期バージョンであるWindows Vistaの登場は早くて2006年と,これも現行バージョンから5年以上かかることになる。

 SAを導入した企業からすれば,過去の製品サイクルから契約期間内に新バージョンが登場することを見越して,ライセンス料金を前払いすることを決断しても不思議ではない。こうした企業にとっては,当てがはずれたことになる。

 テイラー常務自身,「率直に言って,これまでのSAは企業にとって魅力に乏しかった。これは認めざるを得ない」と話す。マイクロソフトとしては,ただでさえSAの導入企業が少ない中,これ以上の「SA離れ」を防ぐために,大盤振る舞いとも言える特典を追加したわけだ。

 テイラー常務は,「今後18カ月の間に出荷する製品の数は,過去3年間に出荷した製品数の倍に当たる」と話す。特典をつけるのも重要だが,マイクロソフトが主張するSAの価値をユーザー企業に届けるには,新バージョンを出荷することが最も分かりやすいはずだ。もちろん新製品には,企業にとってバージョンアップを決断させるだけの機能や性能が必要なことは言うまでもない。これ以上,「手形の不渡り」を繰り返せば,ユーザーは簡単にマイクロソフトに愛想を尽かすだろう。

(玉置 亮太=日経コンピュータ