マイクロソフトが,企業向けライセンス制度「ソフトウエア・アシュアランス(SA)」の位置付けを大きく変えようとしている。「バージョンアップ料金の先払い制度」であったSAを,業務用ソフトウエアでよく見られる「年間保守料金制度」に変えようとしているのだ。同社が9月16日に発表したSAの新しい特典制度を軸に,マイクロソフトの狙いを分析してみよう。
ソフトウエア・アシュアランスの概要と歴史
まずはソフトウエア・アシュアランスの概要について説明したい。
マイクロソフトは4年前の2001年10月に,企業向けのボリューム・ライセンス制度における「バージョンアップ・ライセンス」を廃止して,SAを導入した。SAとは簡単に言えば,ライセンスと同時購入する「期間限定のバージョンアップ権」である。一般にボリューム・ライセンスには,パッケージ版に見られる「アップグレード版」がないので,ソフトウエアをアップグレードする予定のある企業ユーザーは,ライセンスの購入時にSAを併せて購入しておく必要がある。あとからSAだけ追加購入する,といったことは原則不可能である。
またSAには契約期間がある。SAの購入者は契約期間内であればソフトウエアを最新バージョンに自由にアップグレードできる。契約期間が終了した場合は,SAだけ買い直す。つまり,一度ライセンスを購入したユーザーは,SAだけ買い続ければ永続的に最新バージョンを利用できる---というのがSA制度であった。
しかしSAで悩ましいのは,「バージョンアップの度にライセンスを買い直した方が,SAを買い続けるよりも安上がり」というケースが存在することである。編集部の推定では,250本の「Office Professional」で,3年ごとにバージョンアップするのならSAの方が得,4年以上バージョンアップしないのなら買い直した方が得---であった。
しかもSA導入後,マイクロソフトの製品アップグレード頻度は大幅に下がった。SQL Serverのように5年もバージョンアップしない製品も出てきた。また企業向けのソフトウエアは,原則として最短10年サポートされることになった。これらの変化は,バージョンアップの魅力,つまりSAの価値を相対的に下げることになった。
2003年9月からSAに特典を付け出すようになった
マイクロソフトもこれではマズいと思ったのか,2003年9月からSAに対して,バージョンアップ以外の「特典」を付けるようになった。このとき付けた特典は,「Office製品の自宅使用プログラム」「無償トレーニング」「TechNet Plusの無償提供」「デスクトップOS展開ツールであるWindows PE」「営業時間内の電話サポート」---などであった。
実は現在,MS OfficeのSAを購入している企業の従業員は,MS Officeを自宅のパソコンで利用できることになっている。ユーザー企業の従業員が情報システム部などに自宅利用の申請を行うと,マイクロソフトが企業に対して発行しているクーポン・コードを教えてもらえる。従業員がそのクーポン・コードをマイクロソフトの特設サイトで入力すると,MS Officeが1本送られてくるというプログラムである。
こういった特典でSAの魅力を向上させようというのが,マイクロソフトの狙いであった。もっとも,金銭的に最も価値の高そうな「Officeの自宅利用」でさえ,特典として魅力的であるかどうかは疑問であった。OfficeのSAを購入したある企業のシステム管理者は「手間のことを考えると面倒すぎるので,従業員にはOfficeの自宅利用プログラムのことを教えていない」と断言していた。
他の特典も「使いこなすのが難しすぎる(Windows PE)」,「ほかに安価に購入できる手段がある(TechNet Plusや営業時間内の電話サポート)」といった難点があり,特典とは見なされていなかったのが実情であった。
ついにSA特典を大盤振る舞い
そこでマイクロソフトは再度,SAの特典を大幅に強化した。2006年3月以降,SAを購入したユーザーに対して様々な特典を追加すると発表したのである(関連記事)。
目玉は「24時間365日の電話サポート」だ。これまでマイクロソフト製品で24時間365日の電話サポートを受けるためには,1000万円単位の費用がかかるという「プレミア・サポート契約」を結ぶ必要があった。それを「インシデント制(問い合わせ1回につき費用が発生する制度)」とはいえSAの購入者全員に広げたのだから,これは「大盤振る舞い」と言っていいだろう。
マイクロソフト以外の業務用ソフトウエアでは,ライセンス料金以外に「年間保守料金」を徴収するケースが目立つ。例えばSQL Serverのライバルである「Oracleデータベース」の場合,「Standard Product Services契約」を結ばなければセキュリティ修正を含むすべての修正パッチを入手できない。その代わり,Standard Product Services契約には24時間365日の電話サポートが含まれている。
SQL Serverの場合,修正パッチは全ユーザーが無償で入手できる一方,24時間365日の電話サポートを受けるためには高額なプレミア・サポート契約が必要だった。それが2006年3月からは,SAを買えば24時間365日の電話サポートが受けられる。SAをサポートのための「年間保守料金」と考えれば,ユーザーにとって受け入れやすくなるのは間違いないだろう。