写真●日本郵政の西室泰三社長
写真●日本郵政の西室泰三社長
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 「金融機関はIT装置産業であり、システム産業だ。システム産業としてしっかりとしたIT戦略を立てるために、CIOを外部から招聘した」。ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険、日本郵便を傘下に持つ日本郵政の西室泰三社長は2013年9月10日、東京の日本記者クラブで講演を行い、こう述べた(写真)。

 講演後の質疑応答で、「経営トップとして、日本郵政グループのITガバナンスをどう強化していくか」との記者の質問に答える形で、西室社長はITに対する思いを披露した。

 西室社長はIT分野の技術進化について「クラウドコンピューティングなど新しい技術が台頭している」とした上で、「今の(郵政グループのシステムの)欠点をあえて言えば、こうした時代の変化に即応できていない」と言い切った。

 その原因について、西室社長は2007年の民営分社化以後、郵政グループ各社が「個別に入札を実施してそれぞれシステムを組み上げてきた」点を挙げた。その結果、システムが全体として最適な形になっておらず、「小さなトラブルが発生している。放置できない状況にある」(西室社長)。

 経営の立場から、グループ全体最適の視点でIT戦略を見直すには「CIOが不可欠」。西室社長はこう考え、日立グループからCIOを招聘することを決めた(関連記事)。

 「CIOはとても難しい役割を担っている。個別のシステムについて把握しつつ、全体を理解し、大きな視点で取り組まなければならない」(同)。特に郵政グループの場合は、貯金システムや保険システム、郵便システムなど各システムがそれぞれの分野で日本最大規模。それだけに、CIOには大規模システムの経験が不可欠だ。

 適任者を招くために、西室社長が日立製作所の川村隆会長に依頼。「(川村会長が)1週間で決めてくれた。さらに(副社長としてCIOを担う小松敏秀氏には)1カ月で異動の準備をしてもらった。とても感謝している。CIOを中心に、システム会社として遜色ないIT推進体制を確保したい」(同)。

 西室社長は東京証券取引所(現・日本取引所グループ)の会長を務めていた2005年末、大規模システム障害の責任を取り辞任した経営トップに代わって急遽会長兼社長に就任した。その直後に鈴木義伯氏(現・日本取引所グループ専務CIO)をNTTデータグループからCIOとして招き、鈴木CIOと二人三脚でシステム改革を進め、株式売買システムの全面刷新を成功させた実績を持つ。

 西室社長は当時を振り返り、「東証の時の方が楽だった。当時のシステムがあまりにひどく、全面刷新をすぐに決断できたからだ」と明かした。「結果的に、世界の取引所の中で最も安全かつ効率的で処理スピードが速く、止まらないシステムが出来上がった」(同)。

 東証での経験を基に、西室社長は「日本には(ITの)技術力がある」と断言した。「(経営陣として)マネジメントをしっかりやって、(郵政グループを)しっかりしたシステム会社にしていきたい。そのために必要であれば投資もしていきたい」と力を込めた。