金融庁は2013年2月28日、第33回企業会計審議会監査部会を開催し、「監査における不正リスク対応基準(案)」および関連した監査基準の改訂について議論した。不正リスク対応基準は、オリンパスなどの不正会計事件を契機に、不正リスク(不正による重要な虚偽表示のリスク)に対応した財務諸表監査の進め方を明確化することを狙ったもの。同部会は監査基準の改訂と併せて、基準策定に向けた議論を進めている。

 2012年12月11日に開催した第32回監査部会で同基準の公開草案原案を議論し(関連記事:金融庁監査部会、「不正リスク対応基準」の公開草案原案を公表)、同12月21日に公開。2013年1月25日までコメントを受け付けた。11の団体と13人の個人がコメントを出した。

「抜き打ち」の言葉は残し、説明を追加

 今回の部会ではコメントを基に公開草案を修整し、不正リスク対応基準(案)として公表した。内容に大きな変更はないが、多数の表現を見直した。中でも大きく表現を変えたのは、「抜き打ち監査」に関わる部分だ。

 不正リスク対応基準では、監査人が財務諸表に関わる不正リスクを識別した際に、いわゆる抜き打ちの監査など、企業が想定しない要素を監査計画に組み込む必要があるとしている。公開草案では「財務諸表全体に関連する不正リスクが識別された場合には、抜き打ちの監査手続の実施、…など、企業が想定しない要素を監査計画に組み込むことが必要になる」という表現だった。

 今回の基準案ではこの箇所を、「財務諸表全体に関連する不正リスクが識別された場合には、…、予告なしに往査することなど、企業が想定しない要素を監査計画に組み込むことが必要になる。特に、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合において、その状況によっては、修正する監査計画に企業が想定しない要素を組み込むこと(予告なしに往査する、いわゆる抜き打ちの監査手続を含む。)が有効なことがある」としている。「抜き打ち」という言葉は使いつつ、より説明を加えた形だ。

 金融庁は「抜き打ち監査」の部分について、「コメントが一杯寄せられた。監査の実務指針では『抜き打ち』という言葉を使っていないので、実務指針の説明を引く形で修整した」と説明した。委員からは「抜き打ち」という言葉を使うかどうかについて、「誤解を与えるので使わないほうがいいのではないか」「既にメディアなどでこの言葉は広まっており、使うのは問題ない」など賛否両論の意見が出た。

中間監査には適用、四半期レビューは適用外

 もう一つ、議論が多かったのは中間監査や四半期レビューとの関連である。基準案では、基準が適用されるのは年度監査だけでなく、中間財務報告を対象に実施する「中間監査にも準用される」としており、実施時期も「平成26年(2014年)9月30日以降終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施する」としている。

 一方、基準案では「本基準は四半期レビューには適用されない」とする。四半期レビューは「年度監査と同様の合理的保証を得ることを目的としているものではない」というのが理由である。ただし、四半期レビューの際に不正による重要な虚偽表示の疑いがあると判断した場合、監査人は「四半期レビュー基準にしたがって、追加的手続を実施することになる」としている。

 この部分について、委員からは「中間監査には適用し、四半期レビューには適用しないというのはおかしいのではないか」「年度監査に適用とし、中間監査であれ四半期レビューであれ、不正の種が見つかったら今回の基準にのっとって追加的手続を実施するということが望ましい」といった意見が出た。金融庁は「中間監査と四半期レビューの位置づけは違う」としながら、「意見を聞いて判断したい」と語った。

 次回の監査部会は2013年3月13日に開催する予定。ここで今回の意見を反映した不正リスク基準案と監査基準案を再度議論する。金融庁は「監査基準以外の事項の進捗についても報告する」としている。

 同日には、日本公認会計士協会が「『不正リスク対応基準』に対応するための監査基準委員会報告書の改正について」(公開草案)を公開した。前回の監査部会で予告していた、不正リスク対応基準に対応した監査の実施基準案である。監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」、同240「財務諸表監査における不正」、同330「評価したリスクに対応する監査人の手続」などを改訂した。2013年3月27日まで意見を募集する。