日本通信は2012年12月3日にも、NTTドコモの通信原価の算定方針について、総務大臣に苦情を申し入れる。NTTドコモは自社エンドユーザーに将来原価に基づいた料金を、MVNO(仮想移動体通信事業者)には実績原価に基づいた接続料をそれぞれ提示しており、競争条件の公平性の面で問題があるとの主張だ。

 電気通信事業法には、第172条(意見の申出)で、「通信事業者の料金や提供条件などについて苦情や意見を受け付け、総務大臣は申し出を誠実に処理しなければならない」との決まりがある。日本通信は同制度を活用して苦情を申し入れる。

 日本通信の主張は「NTTドコモが複数の原価算定方法を使い分け、MVNOをはじめとした競争事業者の事業運営を困難にする状況を発生させている可能性が高い」というもの。

 同社は2010年4月にも、「NTTドコモが法人向けデータ通信サービスを、原価割れに近い不当に安い料金で提供している疑いがある」と総務大臣に苦情を申し入れたことがある。当時は「法律に触れる問題点はただちには認められない」と退けられたが、NTTドコモの主張は「実利用が将来年度となる場合の案件については過去実績から推計した値を採用」しているというものだった(関連記事)。つまり、将来原価に基づいた料金設定を取り入れている。

 一方、MVNO向けの接続料は、接続約款において「変更後の料金額の原価に係る事業年度の翌事業年度の4月1日に遡及して、変更後の料金額を適用する」となっている。つまり、過去の原価が採用されており、例えば2012年度の接続料は「(いったんは)2010年度の原価で算定された2011年度分が適用されることになっている」(日本通信)という。

 もっとも、それぞれの考え方は珍しくなく、通信業界では一般的なもの。ただ接続料は設備にかかった費用をトラフィックで除算することで算出しており、設備効率化とトラフィック増加が進む現状では、将来原価を取り入れた方が料金面で有利になる。例えばNTTドコモの2011年度パケット接続料を見ると、2010年度比でレイヤー2接続は35%減、レイヤー3接続で40%減となっている(関連記事)。

 接続料の算定根拠となる原価は遡及精算するとはいえ、(いったんは)2年前の実績で計算されるため、エンドユーザー向け料金の算定根拠となる原価に比べると「実質、3年間の乖(かい)離がある。この差は決定的で、MVNOは料金面で非常に不利な立場にある。通信原価に関する競争条件のイコールフッティングに反し、適切な措置を速やかに講じるべき。MVNOの浸透で料金の低廉化や多様化が進んでおり、ひいては一般消費者の利益を損なうことにつながる」(日本通信幹部)と主張する。

 総務省は現在、携帯電話事業者の接続料の算定について、その算定方法と検証のあり方を検討する「モバイル接続料算定に係る研究会」を開催している(関連記事)。同研究会においても当然、検討すべきテーマと考えられている。