写真●リコージャパン顧問の遠藤紘一氏
写真●リコージャパン顧問の遠藤紘一氏
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 政府は2012年8月10日、政府情報化統括責任者(政府CIO)に、リコージャパン顧問の遠藤紘一氏を起用すると発表した(関連記事)。

 そこで遠藤氏が考える、政府のシステム調達の問題点と改善策を紹介しよう。以下は就任が決まる前の2012年5月末、政府情報システム刷新有識者会議の委員を務める同氏に、日経コンピュータが政府システム改革の道筋を尋ねた時の談話である。

課題1:要件定義が荒い

 政府のシステム調達が抱える問題は、二つある。一つは、情報システムの調達力が不足していることだ。

 現状では、発注側である省庁は、システムに求める機能を記した要件定義書を十分に書き切れていない。かなり荒っぽい要件定義のまま、入札プロセスに入っている事例が散見される。これでは「安かろう悪かろう」の入札になりやすい。

 既に省庁の業務を熟知している既存ベンダーであれば、要件定義書に書かれていなくても「この要件は必要だ」と判断し、見積もりに反映させる。一方新規ベンダーは、要件定義書に書かれた最小限の要件を基に見積もりを出す。

 そうなれば、新規ベンダーの方が安価な見積もりを出し、落札するのは明らかだ。だが、完成したシステムは使い物にならないだろう。

 情報システムに限って言えば、「安ければ安いほど良い」や「できないことをITベンダーが引き受けるはずがない」といった考えは通用しない。発注者である省庁は、自分がやりたいことを具体的に文書化する能力を身につける必要がある。あるいは、民間企業で業務の文書化をこなしてきた優秀な人材を起用してもいい。

課題2:業務改革の取り組みが甘い

 もう一つの問題は、システム刷新に伴う業務改革(BPR)に取り組むための体制作りや意識改革ができていないことだ。

 これまでの政府のシステム調達は、BPRの成果が適切に評価されず、外部からも分からない仕組みだった。

 「ITで業務を改革する」と言いながら、BPRで浮いた人材をどう活用するか、各省庁は事前に検討していないのが現状だ。システム刷新後の事後評価では、削減できた業務時間の総量が評価されるだけ。具体的にどの部署で、何人が削減されたかは全く公開していない。

 民間におけるBPRの目的は、コスト削減に加え、人材という経営資源を再配置し、全体のアウトプットを高めることにある。既存業務の効率を高めることで、その業務に充てる人員を減らす。そうして浮いた人員を、別の成長分野に回す。これがBPRだ。

 それには、業務改革の時点でどの部署のどの人材が浮くか、その人材をどの分野に再配置するかを、あらかじめ決めておく必要がある。そもそも「業務を削減する」というだけのBPRでは、現場は協力しなくなる。

 BPRを円滑に進めるには、省庁の職員一人ひとりのITリテラシーを高めることも必要だ。現場がITを知ることで、「このITを使えば、もっと簡単に、正確に、高い品質で仕事ができるのでは」といったアイデアが出てくる。そのアイデアを集約し、重複するアイデアは一本化し、優先順位を付けて予算を割り振る。これにより、費用対効果の高いシステム投資を行える。