日本の会計基準の策定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)は2012年6月21日に第246回委員会を開催し、「包括利益の表示に関する会計基準」に対する改正案を承認した。早ければ6月25日に公開するとみられる。出席した委員は全員公開に賛成したものの、「今後、単体(個別)財務諸表への適用も考慮すべき」との意見が出た。

 包括利益は、ある企業の特定期間における純資産の変動を表す利益概念(持分所有者との直接的な取引を除く)。IFRS(国際会計基準)と日本の会計基準(日本基準)との主要な差異をなくすコンバージェンス(収斂)の一環として、2011年3月期から連結財務諸表に表示を義務付けている。

 今回承認を受けたのは、「包括利益の表示に関する会計基準」(改正企業会計基準第25号)。改正前の基準では、単体への適用に関して「基準公表から1年後を目途に判断する」としていたが、改正後は「当面の間、個別財務諸表には適用しない」旨を明記した(第16-2項)。

 ASBJは改正案の公開草案を4月24日に公開(関連記事:ASBJが「包括利益」基準の改正案公開、「単体には当面適用せず」)。5月25日までコメントを受け付け、日本公認会計士協会などが意見書を提出した(関連記事:包括利益の単体への適用も議論すべき、公認会計士協会が意見書)。

 改正基準では公開草案に対するコメントに基づいて、文言を若干修正・補足している。包括利益を表示する目的に関する第21項に関して、「本文中の包括利益がボトムラインに示される包括利益なのか、その他の包括利益なのか判別が困難」という意見があった。このため、目的を示す1行目に補足して、「包括利益『及びその他の包括利益の内訳』を表示する目的は、…純資産の変動を報告する『とともに、その他の包括利益の内訳項目をより明瞭に開示する』ことである」とした(『~』の部分が今回追加された文言)。

「当面の間、個別財務諸表には適用しない」

 ほかに、計算書の名称に関する意見があったことや、その他の包括利益の内訳の開示(第31項)で為替予約の振当処理に関する開示は必要ないことなどを記載。冒頭の「公表にあたって」では、「個別財務諸表に包括利益を表示すべきであるという意見なども寄せられた」ことに対して、「市場関係者の意見が大きく分かれている」状況や、単体の包括利益に関する情報は「現行の株主資本等変動計算書から入手可能である点を勘案し、「当面の間、個別財務諸表には適用しないこと」とする旨を説明している。

 委員の一人は「審議の間、単体にも適用すべきと言い続けてきた。今もその意見は変わらない。包括利益は形式的なものではなく、業績報告として重要な指標。連結に適用したのは、日本基準をより優れたものにすることが狙いだ。単体にも適用するのが自然」と意見を述べた。別の委員も、「包括利益について様々な議論や懸念があるのは理解している。しかし、連結と単体は本来、同じ表示であるべき。現状では懸念のほうが大きいので今回はこの改正案でよいと思うが、あくまで『当面の間』であり、今後も議論を続けていくべき」と語った。