企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議
企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議
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 金融庁は2012年4月17日、IFRS(国際会計基準)の適用について議論している企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議を開催した(写真)。今回取り上げたテーマは、「投資家と企業とのコミュニケーション」と「規制環境(産業規制、公共調達規制)、契約環境等への影響(1)」の2点。金融庁が2011年8月に「今後の議論・検討の進め方(案)」として挙げた11項目の論点(関連記事:IFRS強制適用について11論点を提示、企業会計審議会が開催)のうち前回までに計8項目を議論しており、今回は9・10項目めにあたる。

 投資家と企業とのコミュニケーションに関しては日本証券アナリスト協会(SAAJ)の稲野和利会長が説明し、契約環境等への影響については全国銀行協会の会長企業であるみずほフィナンシャルグループの与信企画部担当者が解説した。委員からの質問や意見を審議会会長である安藤英義専修大学商学部教授が順次受け付けたが、これまでの審議会と同様、意見の集約や今後の方向付けは行わなかった。前回の会議(関連記事:中小企業は「IFRSの影響を受けない」、金融庁審議会が議論)は欠席だった自見正三郎金融担当大臣は、今回は最後まで出席した。

「全上場企業への段階適用」に異論続出

 委員からの発言が相次いだのは、稲野SAAJ会長が「投資家から見たIFRS」と題して実施したプレゼンに対して。同氏は、投資家の観点から財務諸表の国際的な比較可能性を高めるためにIFRS採用を支持すると説明したうえで、全上場企業への段階適用案などを提示した。これに対し、IFRS適用に慎重な委員から異論や批判が相次いだ。

 IFRS適用に慎重な佐藤行弘三菱電機常任顧問や加護野忠男甲南大学特別客員教授は、SAAJが検定会員(CMA)を対象にIFRS採用の賛否を調べたアンケート調査(2010年6月)の実施方法や結果の解釈に疑問を呈した。調査結果を基にアナリスト全体がIFRS採用に前向きとするのは意図的と批判。また、財務諸表の比較可能性の向上や「レジェンド(注記)問題」の再燃への懸念など、稲野氏が挙げたIFRS採用のメリットや採用しないことのデメリットについて、佐藤氏は逐一反論した。

 このほか、「韓国の重工業では設備の減価償却方法が同業種でも企業ごとにばらばらになり比較可能性がかえって損なわれた」(東レ経営研究所の永井知美シニアアナリスト)、「改善途上のIFRSは企業にとってベストな基準ではない。財務諸表の国際比較が必要な企業は多くないので対象は相当に絞られるべき」(住友化学工業の廣瀬博取締役副会長)、「製造業に負担を強いて弱体化させるような制度の導入は、ものづくり大国である日本にとって国益にならない」(テルモの和地孝名誉会長)など、企業経営の観点からもIFRS採用の慎重論が相次いで展開された。

 これに対し、IFRS設定主体であるIASB(国際会計基準審議会)の運営母体であるIFRS財団で評議員会副議長を務める藤沼亜起氏は、稲野SAAJ会長のプレゼンを「マクロ的なビジョンを示している」と擁護。IFRSを採用したドイツや韓国の製造業の好調さを指摘しながら、IFRS採用が製造業の逆風になるとの見方に反論した。日本企業が海外に進出する際に日本の会計士がIFRSを理解できないために海外に出て行けなくなることがないよう、日本として戦略的にIFRS採用に取り組むことの重要性を訴えた。

 東京証券取引所グループの斉藤惇社長も、審議会は本来、個々の基準の是非を議論する場ではなく、欧米主導のIFRSで日本が主導権を発揮できるようにするため(推進の流れに)乗っていくことだったと指摘。「立派な技術があっても事業には資本がいる。資本コストを下げて産業を興すのが国家戦略であるべき」と、IFRSの採用によって海外資本を取り込みやすくすることの意義を強調した。