金融庁は2012年3月29日、IFRS(国際会計基準)の適用について議論している企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議を開催した。議論したのは、非上場・中小企業への影響と、監査法人における対応の2点。前者については「IFRSの影響を受けないようにすべき」との方向性を確認した。

 会議ではまず、約260万社の非上場企業・中小企業に関わる会計基準について、国内外の状況を金融庁が説明した。日本では、2005年8月に「中小企業の会計に関する指針(中小指針)」を公表。2012年2月に、中小指針をより簡素化し、経営者の利用を意識した「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」を公表した。

 非上場・中小企業に対するIFRSの影響について、審議会ではたびたび「対象から除外して、影響を受けないようにすべき」との意見が出ていた。IFRS適用のロードマップを示した「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」では、「IFRSに基づく財務諸表作成のための体制整備や準備の負担を考えると、非上場企業へのIFRSの適用は慎重に検討すべき」としていた。中小会計要領でも「安定的に継続利用可能なものとする観点から、国際会計基準の影響を受けないものとする」と明記している。

 IFRSの設定主体であるIASB(国際会計基準審議会)は2009年7月、中小企業を対象にIFRSを簡素化した「IFRS for SMEs」を公表した。しかし、「日本語版で200ページもあり、簡素化したとはいえ、かなりのボリューム」(金融庁)で、委員からは「IFRS for SMEsを採用しているのは南アフリカくらいで、ほとんどの国は採用していない」との指摘もあった。欧米や中国、韓国などは基本的に、非上場・中小企業向けに自国基準または自国基準を修正した基準を使っている。

 こうした前提があることから、「非上場・中小企業はIFRSの影響を受けないようにすべき」との方向性について、審議会で異論は特に出なかった。「『IFRSの影響無し』は関係者の総意と見てよい」「大企業と中小企業とは属性がそもそも異なる。会計基準も違うのが当然」などとする意見が出た。

「このままの状態ではIFRSに関する国際的発言力は低下」

 監査法人における対応については、日本公認会計士協会の山崎彰三会長と関根愛子副会長が説明した。IFRSに基づく財務諸表監査は日本基準に基づく監査と同様の枠組みで実施し、意見形成は基本的に日本の監査法人の中で完結している。IFRS適用の判断は、本質的に日本の会計基準適用の判断と同じ。ただ、IFRSは国際基準である点に考慮が必要、といった内容を解説した上で、監査法人向けのガイダンスを可能な範囲で公表する、IFRS適用を判断できる人材を育成していく、などの方針を示した。

 委員からは「IFRSの原則主義への不安がある。IFRS対応の際はよく『早めに監査人と協議せよ』というが、原則主義の枠組みの中で、各社が個々に監査人と話すという形で支障は生じないのか。例えば、ガイダンスは企業を超えて共有されるのか」という質問が出た。これに対し、関根氏は「ガイダンスとは日本基準との対比など、書店で購入できる書籍の範囲のものだ」とコメントした。

 山崎氏が説明の中で「日本はIFRSに関する国際的発言力の強化を忘れてはならない」と強調したことに関連して、「日本はコンバージェンス(収れん)にコミットしており、EUから同等性評価も得ている。IFRSの任意適用も進んでいる。この取り組みについて、米国や中国に劣るとの判断が下されるのか」との質問も出た。これに対し、山崎氏は「コンバージェンスや同等性評価はこれまでの話。いま議論しているのはこれからの話だ。(IFRS適用の意思表示をしていない)このままの状態では発言力が低下するのは間違いない」と答えた。 

 今回で、金融庁が「今後の議論・検討の進め方(案)」として示した11の論点(関連記事:IFRS強制適用について11論点を提示、企業会計審議会が開催)のうち、8項目分の議論が終了したとみられる。残る3項目は「規制環境(産業規制、公共調達規制)、契約環境等への影響」「投資家の企業とのコミュニケーション」「任意適用の検証」である。次回の合同会議は4月17日に開催する予定である。