金融庁は2011年11月10日、IFRS(国際会計基準)について議論をする企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開催した。10月17日に開かれた前回の合同会議(関連記事:企業会計審議会総会(第3回)報告(前編)同(後編))に続いて、IFRSを適用した場合の連結財務諸表と単体財務諸表の取り扱いを中心に議論した。

 会議の冒頭では自見庄三郎金融担当大臣が挨拶。オリンパスが損失計上を先送りしていた問題を挙げ、「市場の公平性で透明性を確保する観点から遺憾である」としたうえで、「一般論として公平性、透明性を確保するためには企業のガバナンスが重要である」との認識を示した。

「IFRSは世界に信頼される市場構築のインフラ」

 合同会議では、IFRSそのものを日本の会計基準として採用する強制適用(アダプション)についての議論の中で、自見金融担当大臣と同様にオリンパスや大王製紙など大手製造業の会計処理の問題に言及する委員がいた。

 青山学院大学大学院教授の八田進二氏は「一部上場企業で歴史のある日本の製造業から、我が国のディスクロージャー制度を根幹から失墜させるような企業が出たことは遺憾」と強調。特にオリンパスが保有株式の時価評価を求めた2000年代前半の会計ビックバンを契機に損失隠しを始めたことについて、「バブル経済で信頼を落とした市場の透明性、信頼性を確保するのが会計ビックバンだったはずだ」と指摘した。

 そのうえで合同会議でのIFRSをめぐる議論の中で、「IFRSは日本的経営に合わないといった議論も出てきたが、IFRSをめぐる議論の中で『日本的』というと不透明な財務報告と同義になってしまう危険性がある」と八田氏は主張。「我が国の経済環境を踏まえれば、グローバルから遅れをとるのは考えられない。より信頼される市場の構築と発展が大切であり、そのインフラがIFRSであるというのは論を待たない」とした。

 大和総研執行役員の引頭麻実氏は、「財務諸表の利用者の立場から2社の問題は遺憾」としたうえで、「今回の問題をケーススタディーとして研究すべきだ」と主張した。「仮にIFRSを採用していたら同様の問題が起こらなかったのか、あるいは問題は内部統制監査にあるのか、マネジメントなのか、などを整理する必要がある」と指摘。「海外の投資家からの信頼性を回復するためにも、ケーススタディーとして分析した方が良い」(引頭氏)とした。

引き続き「連単分離」を支持する意見が多数

 2社の会計不祥事に関する言及のほかに、合同会議では前回から引き続き「我が国の会計基準・開示制度全体のあり方」として、連結財務諸表と単体財務諸表のあり方を議論した。会議の中で事務局である金融庁が「国際会計基準(IFRS)に係る討議資料」として、日米欧の開示制度や連結と単体の関係などについて説明し、前回提示した論点と同様に四つの詳細な論点を挙げて委員に意見を求めた。

 連結財務諸表は金融商品取引法が関連する一方で、単体財務諸表は会社法や税法と密接に関係する。また現在は米国会計基準やIFRSを採用している企業に対して、日本基準に基づいた単体財務諸表を求めている。金融庁の資料によると、米国会計基準を採用している企業は33社、IFRSを任意適用している企業は3社ある。

 こうした事実を踏まえて、現在のIFRSの強制適用をした場合の方針として打ち出している「連結先行」の考え方を維持するかについて、委員は各人の立場から意見を述べた。