金融庁は2010年12月22日、内部統制報告制度(J-SOX)の簡素化・明確化に向けた公開草案を公表した。公開したのは、J-SOX対応の教科書といえる「基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準)」と、参考書の位置づけである「実施基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準)」の改訂案。11年1月25日までコメントを受け付け、11年度(11年4月以降の事業年度)からの適用を目指す。J-SOX適用事例の募集も同時に開始した。

 基準と実施基準の改訂案は、11月25日に開催した企業会計審議会第20回内部統制部会での議論を基にしたもの。(1)企業の創意工夫を生かした監査人対応の確保、(2)内部統制報告制度の効率的な運用方法を確立するための見直し、(3)「重要な欠陥」の用語の見直し、の3点について修正している(関連記事:J-SOX簡素化の骨子が具体化、基準・実施基準の改正案登場)。

 簡素化策として例えば、現在の基準では評価手続きを除外できるやむを得ない事情として「期末日直前における他企業の買収等」を例示していたが、改定案では「下期における他企業の買収等」と範囲を広げている。さらに実施基準の改訂案では、「『下期』はあくまでも例示であり、…その合理性が認められるときには『下期』に限られないことに留意する」としている。

 IT関連では部会での案の通り、業務処理統制評価の簡素化に関する記述を追加した。「ITを利用して自動化された内部統制については、過年度の評価結果を継続して利用できる場合、一定の複数会計期間に一度の頻度で運用状況のテストを実施する方法も含まれる」との注を実施基準に入れた。

 「連結税引前利益の5%」「連結ベースの売上高等の3分の2」「売上、売掛金、棚卸資産の3勘定」といった実施基準の中で一人歩きしかねない数値については、部会での議論を踏まえて、数値は残しつつ誤解を招かないよう、より詳細に説明を入れる方針を採った。例えば3勘定については、あくまでも例示であるとし、「個別の業種、企業の置かれた環境や事業の特性等に応じて適切に判断される必要がある」との注を入れた。さらに銀行業では「預金、貸出金、有価証券の3勘定に至るプロセス」を原則的な評価対象とできる旨も入れている。

 「重要な欠陥」の言い換えに関しては、第20回部会でも「開示すべき重要な不備」と「重要な要改善事項」の両論を併記していたが、委員のほとんどが「開示すべき重要な不備」を支持したため、基準・実施基準の公開草案では「開示すべき重要な不備」を採用している。

 事例集は「中堅・中小企業等(事業規模が小規模で比較的簡素な構造を有している組織等)が、資源制約等がある中で、様々な工夫を行ったことにより、内部統制の有効性を保ちつつも、効率的に内部統制の評価等を行っている事例」を収集するのが狙い。基準・実施基準改定案へのコメント同様、11年1月25日まで募集する

 第20回内部統制部会では、12月10日に第21回部会を開催する予定であるとする一方で、部会を開催せずに公開草案化する可能性を示唆していた。第20回部会での議論で改定案に大きな変更は必要ないとされたため、部会を開催せずに公開草案を出したとみられる。

 同日、金融庁は「四半期」制度の簡素化に関する内閣府令案も公表した。企業会計基準委員会(ASBJ)が12月16日に開催した第215回委員会での議決に基づく(関連記事:ASBJがIFRSコンバージェンス計画表更新、「企業結合」「無形資産」公開草案は来年3月に延期)。基準・実施基準の改正案と同様、11年1月25日までコメントを受け付け、11年度の適用を目指す。