金融庁は2010年11月25日、企業会計審議会第20回内部統制部会を開催。内部統制報告制度(J-SOX)について見直しの具体案を提示した。第17~19回の内部統制部会の議論(関連記事)を踏まえて、J-SOX対応の教科書といえる「基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準)」と、参考書の位置づけである「実施基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準)」の改正案を部会で公表した。

 今回、公表された基準と実施基準は前回までの修正点を考慮して、新規の項目追加や文章の修正をしたものだ。修正点は、(1)企業の創意工夫を生かした監査人対応の確保、(2)中堅・中小企業向けの効率的な内部統制報告実務の「事例集」の作成、(3)内部統制報告制度の効率的な運用方法を確立するための見直し、(4)「重要な欠陥」の用語の見直し、の4点である。

 (1)については、実施基準の財務報告に係る内部統制の監査の項目に「経営者による財務報告に係る内部統制の評価の理解・尊重」や「内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施」を促す文書を新たに追加するといった内容を検討した。いずれも監査の効率化を狙ったものだ。

 内部統制監査の効率化については、「中堅・中小上場企業に対する監査人の適切な指導的機能の発揮」が見直しの課題の一つとして挙がっていた。これに対応するために、「事業規模が小規模で比較的簡素な構造を有している組織」に対して、「経営者からの相談に対しては、内部統制の有効性を保ちつつ、特に効果的かつ効率的な内部統制の構築や評価を行うとの観点から、適切な指導を行う必要があることに留意する」との文書を実施基準に加える。

 (2)では前回の内部統制部会で公表した事例集を新たに提示した。「内部統制報告制度に関する事例集(仮称)~中堅・中小企業などにおける効率的な内部統制報告実務に向けて~」という名称にして、これまでに金融庁から公表された「内部統制報告制度に関するQ&A」といった文書に合わせる方針を示した。

 (3)では、「重要な欠陥」の金額的な重要性の判断基準について、「連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などは、評価対象年度の実績値のみならず、それぞれの過去の一定期間における実績値の平均を含むことに留意する」といった文言を新規に追加する。これまでは重要な欠陥の判断基準として「例えば、連結税引前利益のおおむね5%程度とすることが考えられる」との趣旨のみ例示していた。新規の文言を追加したことで、企業の柔軟な判断を促す狙いだ。

 業務処理統制の評価の簡素化として、複数年にまたがってローテーションでの評価を促す文言も追加となった。持分法適用会社が他社の子会社での場合の評価方法の考え方を具体的に記載した。

 中堅・中小の上場企業に対しては簡素化・明確化を打ち出した。業務処理統制の評価については、「適切な全社的な内部統制が整備及び運用されていることを前提に、一律に、通期において業務プロセスに係る内部統制については運用状況の評価が求められるものではないこと、また、組織内における各階層において必ず評価が求めら得るものではないことに留意する」といった文言を追加する。

 (4)の「重要な欠陥」の見直しについては、前回の部会に引き続き今回も「開示すべき重要な不備」と「重要な要改善事項」の両論を併記。部会では委員に対してどちらが良いかの意見を求めた結果、いくつか意見は出たものの委員のほとんどが「開示すべき重要な不備」を支持した。このため「重要な欠陥」は「開示すべき重要な不備」となる可能性が高くなった。

 金融庁は、今回の議論を踏まえて12月10日に内部統制部会を開催し、議論を踏まえて基準と実施基準の修正版の草案を公開する。