写真1●UQコミュニケーションズの野坂章雄社長
写真1●UQコミュニケーションズの野坂章雄社長
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 UQコミュニケーションズは2010年9月30日、同社の事業状況や今後のモバイルWiMAX技術に関する記者説明会を開催した。

 同社の野坂章雄社長(写真1)は、この秋にイー・モバイルが下り最大42Mビット/秒のDC-HSDPAを開始予定であることに触れ、「最大40Mビット/秒のモバイルWiMAXは大丈夫なのかとよく聞かれるが、大丈夫だ」と強調。モバイルWiMAXの優位性について、スペック表記から技術面に至るまで詳しく解説した。

最高速度表記は「税込みと税抜き表記が混在している」

 野坂社長は、「DC-HSDPAの42Mビット/秒というカタログスペックは実は誤り訂正符号を含めた表記。モバイルWiMAXの40Mビット/秒は誤り訂正符号を除いた実環境に沿った速度で表記しており、比較の前提条件が異なる。いわば税込みと税抜き表記が混在している形」と説明。誤り訂正符号を含めた場合のモバイルWiMAXの下り最大速度は48Mビット/秒で、DC-HSDPAよりも上だという。

図1●各通信方式の誤り訂正符号を省いた形の速度比較
図1●各通信方式の誤り訂正符号を省いた形の速度比較
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 これはDC-HSDPAなど3GPP系の通信方式のスペックが、誤り訂正符号を含めた表記になっていることが原因とのこと。実環境ではあり得ないため、最大42Mビット/秒としているDC-HSDPAは、誤り訂正符号を省けば最大35Mビット/秒に、同じ3GPP系の方式である下り最大37.5Mビット/秒のLTE(FDD、5MHz幅)の場合、その表記に合わせると最大31.3Mビット/秒になるという(図1)。

 DC-HSDPAに対する技術面での優位性は、同社の要海敏和ネットワーク技術部長が説明。DC-HSDPAは伝送方式としてW-CDMAなどと同じ、CDMA方式を採用する。これに対してモバイルWiMAXが採用するOFDMAは、CDMAと比べて帯域を拡張しやすく、信号の精度も高いという。帯域が倍になれば通信速度は2倍になる。信号の精度が高くなればエラー訂正が減り、スループットが向上する形になる。

最大330Mビット/秒のWiMAX2デモを実施

 携帯電話各社はヘビーユーザー対策として様々な帯域制限を実施している(関連記事)。そんな中、UQは「できる限り帯域制御はやらずに済ませたい」(要海部長)という考えを示す。その理由として、モバイルWiMAXの周波数利用効率がCDMA系の通信方式と比べて3~5倍高いこと、データ通信だけに特化しているので効率的な運用が可能であることを挙げた。

 いよいよトラフィック増に対処できなくなった場合は、帯域制御ではなく追加周波数の割り当てや、次世代WiMAX「WiMAX2」(IEEE 802.16m)を導入することで対処したいという。

 WiMAX2は、WiMAXの標準化団体「WiMAX Forum」が標準化を進めている規格。2010年末にも標準化が完了する見込みだ。WiMAX2は、現行のモバイルWiMAX(IEEE 802.16e)の4倍となる最大40MHz幅の帯域を用い、4×4 MIMOを採用する。その結果、現行の下り最大40Mビット/秒から大幅に向上した、下り最大速度は330Mビット/秒となる。なお同社は10月5日から開催する展示会「CEATEC JAPAN 2010」で。「おそらく世界初」(UQコミュニケーションズ)というWiMAX2のデモを展示するという。

図2●WiMAX2(IEEE 802.16m)のロードマップ
図2●WiMAX2(IEEE 802.16m)のロードマップ
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 WiMAX2は、2011年末にも機器の認証プログラムを開始する予定で、2012年に商用導入が可能になる見込みという(図2)。ただ導入に向けては追加の帯域の取得が必要になる。同社は総務省に対し、2009年にサービスを終了した放送衛星を利用した移動体向けマルチメディア放送「モバHO!」の跡地を割り当ててほしい要望を出している。これは同社が保有する2.5GHz帯のすぐ上に位置しており、ここを活用すれば連続した40MHz幅の帯域が確保できるという。

 もっともWiMAX2の採用を正式に表明している事業者は世界にもまだ存在しない。最近ではモバイルWiMAX陣営の事業者が、同じTDD方式を使った通信方式「TD-LTE」へ興味を示すケースも増えている(関連記事)。

 この点についてWiMAX Forumのボードメンバーでもある、渡辺文夫執行役員 CTOは「TD-LTEは現行のモバイルWiMAX相当の規格。LTEと比較してモバイルWiMAXは約2年先行しており、TD-LTEが実用化されるころには、モバイルWiMAXはその先を行っている」と技術面で先行する優位性を強調した。

 またTD-LTEとモバイルWiMAXは、無線伝送方式こそ似ているもののコア・ネットワークに違いがあるという。「LTEは従来の音声系サービスを収容するために重いシステムになっている。それに対してモバイルWiMAXはよりシンプルな形。ネットに特化したサービスをするにはモバイルWiMAXのほうが適している。一つの契約で複数の端末に対応するようなサービスもやりやすい」(渡辺CTO)とした。

 なおUQの最新のオペレーションの状況だが、9月末に33万加入を見込んでいる。2010年度末に80万加入、同時期に基地局数1万5000局という従来から掲げる目標は守りたいとした。また5月にアップルがiPadを発売したことで、モバイルルーターの利用が増えているという。そのため、これまでデータ通信カードが大半を占めていた同社のデバイス比率は、2011年3月にはモバイルルーターとWiMAX搭載パソコンが主流になる見込みを示した。