モバイルブロードバンドの進展による通信トラフィックの急増に伴い、対策を余儀なくされる携帯電話事業者が増えている。イー・モバイルが8月から帯域制御の基準を厳格化したほか、NTTドコモはLTE導入に合わせて新料金プランの導入を検討している。海外でも、iPhone新機種登場に合わせて定額制データプランを見直す事業者が相次いでいる。

 トラフィックの指数関数的な伸びに合わせて、携帯電話事業者は基地局の拡充や、総量規制による帯域の制限、定額制の見直し、無線LANの併用などの対策を続々と打ち出している。基地局拡充以外は、いずれもユーザーの使い勝手が損なわれる可能性があり注意が必要だ。

 帯域制御の基準を大幅に厳格化するのはイー・モバイル。同社は以前、前々月の月間データ通信量が300Gバイト以上のユーザーに対して、1カ月間速度を制限していた。8月30日からは、24時間ごとに300万パケット(366Mバイト)以上使ったユーザーに対して、当日21時から翌日2時の間の速度を制限する方針へと改めた。同社は、制限速度については非公表としている(図1)。

図1●イー・モバイルは帯域制御基準を厳格化<br>トラフィックが急増していることから基準を見直した。一部のヘビーユーザーの利用により他のユーザーに迷惑をかけないようにする。同社のネットワークを利用するMVNO(仮想移動体通信事業者)のサービスも同様の制限となる。
図1●イー・モバイルは帯域制御基準を厳格化
トラフィックが急増していることから基準を見直した。一部のヘビーユーザーの利用により他のユーザーに迷惑をかけないようにする。同社のネットワークを利用するMVNO(仮想移動体通信事業者)のサービスも同様の制限となる。
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1%未満のユーザーの通信が過半に

 今回の帯域制御基準の見直しについてイー・モバイルの坂田大常務執行役員経営戦略本部長は「トラフィックの伸びが非常に大きく、従来の基準を改定する必要があった」と話す。

 同社の場合、1%未満のユーザーの通信トラフィックが全体の半分以上を占めているという。トラフィック増の対策として同社は基地局の増設や2009年12月から運用開始した新周波数帯の活用、下り最大21Mビット/秒のHSPAの導入などを進めている。しかし複数ユーザーが帯域を共有する無線通信では、ヘビーユーザーとそれ以外のユーザー間の偏りを是正できない。「ヘビーユーザーの通信によって他のユーザーの利用環境に影響が出ている。事業者として環境を改善しなければならない。公平性を加味し、ヘビーユーザーに対してよりきめ細かな帯域制御を施すことにした」(坂田本部長)。

 今回の改訂では、速度制限の判断基準を大幅に引き下げたのに合わせて、時間軸上でより細かな制御を取り入れているのが特徴である。これまでは、上限を超えるとその翌々月の1カ月間は通信速度をずっと制限していたが、「これからは24時間単位で監視し、制御する時間帯もトラフィックが集中する深夜に限る。それ以外の時間帯は制御をかけない」(同)。同社は、今回の新しい速度制限のために新しい制御システムを導入した。

 これまで同社の帯域制御の対象となっていた利用者は「ファイル交換系のユーザーがほとんどだった」(同)という。新基準ではさらに幅広いユーザーが対象になりそうだ。