非上場会社の会計基準のあり方を議論する「非上場会社の会計基準に関する懇談会」は2010年7月30日に記者会見を開催、検討結果を説明した。「中小企業をはじめとする非上場会社向けに新たな会計指針を作成することが適当」というのが骨子。検討結果は報告書にまとめ、8月にも公開する。

 同懇談会はIFRS(国際会計基準)の強制適用(アドプション)の課題解決に取り組む「IFRS対応会議」の提言により、日本商工会議所、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本経済団体連合会、企業会計基準委員会が設立した(関連記事)。日本の上場会社を対象にIFRS強制適用の議論が進むなか、中小企業が大半を占める非上場会社向けに「IFRSの影響を遮断あるいは回避する」(懇談会の座長を務める安藤英義 専修大学教授)と同時に、経営者にとって把握しやすく、中小企業の活性化につながる会計指針のあり方を議論してきた。

 報告書では非上場会社を(1)金融商品取引法(金商法)の対象となる非上場会社、(2)金商法適用会社以外の会社法の大会社、(3)会社法上の大会社以外の会社、の三つに分類。(1)の上場会社以外の金商法開示企業(約1000社)は、上場会社と同様の会計基準の適用が適当であるとしている。IFRSを強制適用した場合は、IFRSに対応する必要が出てくる。

 (2)は会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)のうち、上場会社と(1)を除く企業。会社法上の大会社全体で約1万社ある。ここに属する企業は会計監査人による監査は義務付けられているものの、連結財務諸表を作成する義務はない。IFRSは当初、連結財務諸表を対象に適用される(連結先行)見込みなので、IFRSに直接対応する必要はないことになる。懇談会では「上場会社に用いられる会計基準を基礎に、一定の会計処理および開示の簡略化を検討していくことが適当」としている。

 (3)は上場会社、(1)、(2)を除く企業。全体で約260万社あり、多くが中小企業である。今回、報告書でうたった「新たな会計指針」はここに属する企業を対象にするものだ。内容は「中小企業の実態に即し」「中小企業の経営者に容易に理解され」、「国際基準の影響を受けない」ものとする。「法人税法に従った処理に配慮する」と同時に、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に該当するよう留意する」という。

 中小企業向けの会計基準としては、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会が2005年から「中小企業の会計に関する指針」を公表している(最新版は2010年4月に公開)。今回懇談会が提言した指針は、この指針に取って代わるものではなく、両者は併存する。懇談会の副座長を務める島崎憲明 住友商事特別顧問は「従来の指針はレベルが高すぎて、中小企業の中でも会計参与を置くような会社しか利用していないのが現状。新指針はもっと多くの中小企業に使ってもらえるようにする」と話す。

 両指針については、「どのような企業ならどちらを使うべき」という線引きを明確にしていくとする。既存の指針についても、表現を平易なものにするなどの見直しを進めていくのが適当であるとしている。

 懇談会の活動と並行して、中小企業庁が「中小企業の会計に関する研究会」を進めており、8月中にも成果をまとめる。懇談会では中小企業庁の研究会と歩調を合わせる形で、新たな指針の作成主体や作成のスケジュール、既存の指針とのすみ分けについて議論していく予定だ。すでに懇談会には中小企業庁がオブザーバーとして参加する一方、研究会には安藤座長がメンバーとして参加するなどの交流がある。