写真●6月1日に慶応義塾大学で開催された「第9回GIE緊急シンポジウム」
写真●6月1日に慶応義塾大学で開催された「第9回GIE緊急シンポジウム」
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 2010年6月1日、慶應義塾大学SFC研究所 プラットフォームデザイン・ラボは、IT分野の政策提言をテーマにしたシンポジウムを開催した(慶應大学のサイト)。民主党情報通信議員連盟が4月14日に発表した「情報通信八策」(関連記事)を、公開討論を通じてバージョンアップすることを目的としたイベントである。

 同イベントには、民主党の岸本周平衆議院議員と高井崇志衆議院議員、上武大学大学院経営管理研究科の池田信夫教授、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授、慶應義塾大学 総合政策学部の國領二郎学部長がパネリストとして登場。モデレータを慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の金正勲准教授が務めた。

 冒頭、高井氏が情報通信八策を打ち出した背景を説明した。「これをたたき台にしてほしい」「官僚が作る政策には限界がある」「省庁ごとの既得権の壁を政治主導で打破したい」として議論を促した。同氏は、今後の活動に関して、八策のうち「いくつかを選んで推進していくことになると思っている」という見通しを示した。

 政治主導による大胆な構造改革には期待が大きい。國領氏は「政治家は、選挙の結果で自らの判断や行動に対して責任を取る。だからこそ、思い切ったことを言える資格がある」とし、「具体性のあることを示して、成果が出るまで続けて欲しい」との期待感を示した。中村氏は「民主党のマニフェストには当初、デジタルが分かる人に響く言葉が一つもなかった」と指摘したうえで、今回の八策については「やる気や気概が読み取れる。80点はつけられる」と評価した。

 八策の一つに、電波のオークション制度を含む電波ビジネスの創造と「光の道」の100%普及がある。10年にわたってオークション導入を訴えている池田氏は、オークションよりも周波数割り当て問題の影響が大きいと指摘。「周波数の利用で日本が孤立すれば、将来登場するiPadが日本の周波数に対応せず、使えなくなるかもしれない」「10年は取り返しがつかず、かつ緊急性が高い問題だ」とした。

 岸本氏は「オークションが話題に上ったことが価値」とする。今夏にも事業主体が決まることになっている携帯端末向けマルチメディア放送向け周波数を取り上げ、総務省主導で事業主体が決められることに疑問を呈しながら「ここにこそ、オークションを適用すべき」と主張した。

 このところ話題になっている「光の道」について池田氏は、「光ファイバー整備を主張する孫正義ソフトバンク社長の期待は分かるが、各家庭までの光ファイバー敷設を目指しているのは今や日本だけだ。しかもNTT問題と結びつけることには飛躍がある」と述べ、全家庭への光ファイバー整備に懐疑的な姿勢を改めて示した。

 その一方で、通信インフラの整備が政治家の話題に上っただけでも大きな進歩だとし、「過去の約束やしがらみにこだわるのではなく、将来を見据えた判断に期待したい」(池田氏)と注文した。

 中村氏は「光の道をブロードバンドだと解釈するなら、この政策には賛成」とした。そのうえで、「需要政策もセットで考えるべきだ」と指摘する。國領氏も同じ意見である。「今の制度では、ブロードバンド環境を整備しても遠隔医療ができない。周辺産業に関連する制度も変えないと、投資対効果が見込めない」という。

 シンポジウムには、前ITU事務総局長の内海善雄氏や東洋大学の山田肇氏、慶應義塾大学の青山友紀教授といった著名人が多数参加した。八策に対して「国際競争力の強化を考慮してほしい」(内海氏)、「特区で小さなことをするのではなく、大胆に行動してほしい」(山田氏)、「日本の技術力は落ちている。研究開発強化を目指すべきだ」(青山氏)などとコメントしている。

 これらに対して高井氏は「今日は来てよかった」と挨拶。最後は國領氏が「米国をはじめ世界は今、中国に目が向いている。その中で、日本はしたたかな戦略性を持ちたい」とし指摘して同イベントを締めくくった。