写真●ITproの渡辺享靖記者
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 「これまでの仮想化技術はサーバーの延命とコスト削減を志向したサーバー統合が中心だった。今後もそれは変わらないが,新たな3つの領域でも応用が進むのではないか。CO2排出量の削減とパンデミック対策,そしてムダな資源の見える化だ」――。2009年10月28日から東京ビッグサイトで開催しているITpro EXPO 2009展示会において,ITproの渡辺享靖記者が「仮想化技術,3つのトレンド」と題する講演を行った。以下,講演の骨子を紹介しよう。

 まず,CO2排出量の削減について。鳩山首相は「2020年までに,1990年比で25%削減する」との目標を掲げている。また,東京都が改正環境確保条例を来年度から施行し,2020年までに,2000年比で25%削減を目指す。この対象となる都内のデータセンターは約130カ所に及ぶという。この局面にあって,サーバー仮想化が威力を発揮する。

 実例を挙げよう。日本航空インターナショナルで実施したサーバー統合プロジェクトにおけるCO2削減効果の実測では,最新ブレード・サーバーへ単純に集約する方式を採用した場合が10~30%だった。1台のサーバー機(OSも1つ)上にアプリケーションを統合する共用サーバー方式では40~60%。これに対し,サーバー仮想化は70~80%もの実績を上げたという。つまり,仮想化技術はCO2排出量の削減に大変効果的であることが分かった。

 サーバー仮想環境では,低負荷時に一部の物理サーバー上の仮想マシンをすべて他の物理サーバーに移動させ,電源をオフにすることができる。このような特徴を生かした結果と考えられる。

 次に,パンデミック対策について。国立感染症研究所 感染症情報センターによると,新型インフルエンザによる入院患者数は10月14~20日の1週間で445例あった。もし,強毒性のパンデミックが起こったら,どうやって事業を継続するのか。そこで在宅勤務が急浮上する。ITpro読者調査「新型インフルエンザ上陸,そのときどうだった?」によると,シンクライアント利用者の多くは仕事の80%以上を在宅でこなせると答えた。サーバー上にパソコンの仮想マシンをいくつも構成し,シンクライアント端末から仮想デスクトップを利用するような形態だ。ベンダー各社ではこうしたシステム製品の引き合いが増加しているという。

 最後に,「ムダな資源」の見える化について。米Computerworld誌に掲載された米Kelton Researchの調査によると,回答者の72%が「業務の役に立っていないサーバーが15%以上ある」と答えた。IT担当者は意外に資源のムダ使いに関心が低いことがうかがえる。

 仮想化はこうした資源のムダ使いに対する意識を変える力もある。サーバーを仮想化して統合すると,CPUをはじめとする資源の利用効率が上がる一方で,資源の過不足がないかを常にモニターしておく必要が生じる。これに伴い,資源の使われ方に対する意識が非常に高まる傾向にあるようだ。例えば,どの物理サーバーにどの仮想マシンを配置するのか,資源の利用状況を見ながら頻繁に仮想マシンを再配置している企業もあるほどだ。

 例えば,今回のイベント会場で展示している三井情報の「Hyper-V品質測定・分析ツール」のようなツールを使うと,物理サーバーと仮想マシンの稼働状況をリアルタイムに監視できる。CPUやメモリーの使用率,ディスクやネットワークのI/Oの状況が一目で分かり,自ずと資源のムダが見えてくるのではないか。また,サーバーを仮想化する段階でも既存システムの棚卸しをする。そこでの実態調査を通じてサーバーのムダ使いが見えてくるだろう。