レコフの今井光社長
レコフの今井光社長
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 「今回の米国金融危機の元凶は投資銀行」。M&Aアドバイザリー、レコフの今井光社長は2008年11月18日、『金融ITイノベーション2008 Autumn』セミナーの特別講演「M&Aによる金融イノベーションと投資銀行ビジネスの今後」に登壇し、米国発の金融危機の本質や実体経済への影響などについて解説した(関連記事:「金融ビジネスは伝統的な商業銀行モデルに回帰する」---行天豊雄・国際通貨研究所理事長「ライフスタイルに響くマーケティングが必要に」---パネルディスカッションで提言)。

 今井氏はまず「危機の火種は1998年の米LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の破綻にあった」と指摘した。投資銀行の本来の機能は株式や債権取引の仲介であり、リスクの少ない手数料ビジネスが主体だった。しかし、1998年に当時ヘッジファンド最大手だったLTCMが破綻して以降、投資銀行がヘッジファンド・ビジネスに傾注していったという。

 2000年のITバブル崩壊後、投資銀行のヘッジファンド・ビジネス取り込みは加速する。各国中央銀行の低金利政策を背景に、投資銀行は不良債権、不動産、住宅ローンに自己資本を投じ、証券化することで高い収益を確保した。積極的な自己資本投資により投資銀行の資産規模は拡大し、負債比率が大幅に上昇。たとえば、米ゴールドマン・サックス・グループの2007年の総資産は111兆円で、1998年の21兆円から5倍以上に膨れ上がった。また、売上高に占める自己資本投資事業の比率は、2000年には35.7%だったものが、2007年には67.9%にまで高まった。「投資銀行のバランスシートが抱えるリスクが金融システムの中枢的存在になってしまった」(今井氏)わけだ。

 2003年の日本の金融危機では「銀行のバランスシートにリスクが内包されていた」(今井氏)。そのため、銀行が保有する不良債権を公的資金で処理する「金融再生プログラム(竹中プラン)」が解決策となった。一方、今回の米国金融危機では、「信用リスクの高い個人への貸し出しを行った銀行やノンバンクが、投資銀行を経由して証券化したリスクを世界中に拡散してしまった」と今井氏は説明する。この世界中に拡散したリスクに対応するべく米国政府が打ち出した解決策は、大手投資銀行の銀行持ち株会社化だった。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は2008年9月21日、投資銀行1・2位のゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを銀行持ち株会社にすると発表。3位のメリルリンチを含む3社をFRBの管轄下に置いて資金を供給し、流動性の確保を図った。この状況を今井氏は「銀行の中に投資銀行を閉じ込めユニバーサルバンク化した」と表現する。1933年に施行された銀行法(グラス・スティーガル法)により銀行は証券業務を直接営むことが禁止され、“商業銀行”と“投資銀行”の業務が明確に分離された。しかし、今回のユニバーサルバンク化は「歴史を75年逆回転させた」(今井氏)。

 投資銀行のユニバーサルバンク化は米国金融危機の解決策になるのだろうか。今井氏は「緊急措置で、本質的な解決策にはならない」と見る。論拠として欧州の事例を挙げ、「欧州ではユニバーサルバンク化が進んでいたにもかかわらず、今回の金融危機で破綻した」と説明した。

 今井氏は、米国金融危機が解決に至るには2つのシナリオがあると考える。一つは、政府が投資銀行の不良債権を買い取る「政府による資産買い取りシナリオ」だ。本来、有価証券に値段をつけて流動性を付加するのは投資銀行の役目だが、危機下でこの機能が失われている。政府による資産買い取りシナリオでは、まず政府が設立した機関が投資銀行の不良債権の一部を買い取る。その買い取り価格に基づいて各投資銀行の資産を再評価するというものだ。ただし、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチの3社の総資産は合計約319兆円もあり、半減させたとしても「公的資金で買い取るのは難しいだろう」(今井氏)。

 今井氏がより現実的と考えるもうひとつの解決シナリオは、いったんFRB管轄下に封じ込めた投資銀行機能を再び切り離す「スピンアウト・シナリオ」だ。このシナリオでは、ユニバーサルバンク化による緊急措置が一定程度の効果を発揮したあと、預金金融機関から自己資本投資機能を分離して別会社化する。これにより、株主が保有する元の預金金融機関株は、「預金金融機関」株と「自己資本投資」株の2つに分かれる。株主は、リスクの異なる2つの株式について、どちらかを市場に売却するか、あるいは両方とも保有するかを決断する。どちらのシナリオを描いても、長期にわたり投資銀行の信用が収縮していくので解決には時間を要する。「金融危機がいつまで続くかと聞かれれば、“わからない”と答える」(今井氏)。