写真1●エルドラド・アンド・パートナーズの鶴岡謙吾・代表取締役会長兼CEO
写真1●エルドラド・アンド・パートナーズの鶴岡謙吾・代表取締役会長兼CEO
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●アトラス・コンサルティングの森田広一・代表取締役
写真2●アトラス・コンサルティングの森田広一・代表取締役
[画像のクリックで拡大表示]

 景気減速のなか、形の見えにくい金融商品を拡販していくには、個人の趣味・嗜好(しこう)を分析する新しいマーケティングの導入が必要――。2008年11月18日に開催された「金融ITイノベーション 2008 Autumn」のパネルディスカッション「金融緊張下のリテール・マーケティング戦略とは?――生活者の心理とこれからの顧客開拓を考える」では、マーケティングに精通する専門家2人が、既存マーケティング手法を補完する新しいマーケティング手法について議論を深めた。司会は金融ITイノベーションの吉川和宏編集長が務めた(関連記事:「金融ビジネスは伝統的な商業銀行モデルに回帰する」 -- 金融ITイノベーション 2008 Autumn基調講演)。

時代は「個」に注目したマーケティング

 まず、エルドラド・アンド・パートナーズの鶴岡謙吾・代表取締役会長兼CEO(写真1)がマーケティングそのものについて概観した。「売るための仕組みを作るのがマーケティングで、そのために市場と顧客の現状をきちんと分析し、戦略を展開していく」。現在、このうちの「顧客の分析」において従来手法が限界に来ているという。今の主流は、年齢や性別、年収といった定量的な指標を基に顧客をグループ分けしての現状を分析するデモグラフィック(人口統計学的)分析だ。

 デモグラフィック分析が限界に来ている理由についてアトラス・コンサルティングの森田広一・代表取締役(写真2)は、「モノがない時代はニーズを分析するのにデモグラフィックでも十分効果があった。だが、今はモノがあふれ、ITの発達もあり、消費者はたくさん情報を持っている。自分が欲しいものは何なのかを消費者が考える『個』の時代になった。デモグラフィックでは年齢や性別などでグルーピングしてしまうので個人の差は見えない」と説明した。

 そこで注目を浴びているのが、価値感やライフスタイル、趣味嗜好といった一見定性的なものを定量的に分析するサイコグラフィック(心理学的)分析だという。吉川編集長は二つの分析手法の違いを「クラスタリング(グループ分け)手法の違い。デモグラフィックは『何を買うか』で、一方のサイコグラフィックは『なぜ買ったか』でクラスタリングする」と説明した。

クラスタリングがカギ

 クラスタリングに使う指標は「アンケートやインタビュー、コールセンターのデータからのテキスト・マイニングなどで見つける」(エルドラド・アンド・パートナーズの鶴岡会長)。「アンケートも自由回答を重視したほうがキーワードを見つけやすい」とアトラス・コンサルティングの森田代表取締役も同意する。

 こうして導き出した指標を基に、クラスタリングを行う。アトラス・コンサルティングでは、一般的な行動パターンを7つに分ける質問群に加え、金融商品でいえば「『あなたはどんなことに対してお金を使うことを重視しますか』といった、お金に対する行動の質問を加味してクラスタリングし、さらにそのクラスタごとに金融商品に対してはどんなニーズを持っているのかを結びつける」という。こういうクラスタ分析がすめば、あとは以前からある「数量化III類」といった分析手法を駆使して、クラスタごとにお金に対して、どのようなニーズがあって、どんな金融商品を気にしているかが明確に導き出されるという。

 エルドラド・アンド・パートナーズの鶴岡会長は過去に実施した、投資家に対するサイコグラフィック分析では、情報収集の仕方、投資に対する意欲などを軸に7つのクラスタに分類したという。そのクラスタごとに、定量的な株式所持の有無や貯蓄額をマッピング。その結果、貯蓄額が平均より高い2つのクラスタを選定した。「貯蓄額の高い人という定量的なアプローチではなく、行動から分類していくというアプローチなので、結果的にヒット率が高まる」(鶴岡会長)という。

金融業は協業でライフスタイル提案を

 形が見えない金融商品は差異化が難しい。個に注目した新しいマーケティングを金融機関が導入するためにはどうすればよいのか。鶴岡会長は「ライフスタイル提案が得意な業種業界と手を組むのが必要」と話す。「金融機関の方はライフスタイル提案が苦手なことが多い。どうしても『リターンがどれだけ出ますよ』『アベレージが高いですよ』といった説明で終わってしまう。サイコグラフィック分析を実施して、そのリターンを得ることによって、例えば『親子の絆がどれだけ強くなります』とか、『こんないい思い出ができますよ、そのために私たちがお導きします』というところを提案することで、安心感や親近感が沸き、長いお付き合いができる」と続ける。実際に、日本で富裕層向けサービスを提供する英銀のHSBCと旅行会社大手のJTBが手を組んだ実績もあるという。

 森田代表取締役は「その人が何をしたいのかというライフスタイルに沿った売り方をするには、真の競合を探すことも大事」と話す。「鉢植えの真の競合は実はペットだ」と分かった例があったという。顧客がどういう意味合いで鉢植えを買っているのかを分析したところ、水を毎日やるといった「世話をする」というキーワードがあがった。「ところが、世話をするというキーワードに最も近いのはペットを飼うこと。そこで小売店の店員には『ペットを飼うのは非常に楽しい、生活が豊かになるということでしょうけど、鉢植えを買って毎日水をやってきれいな花を咲かせるのって素敵ですよね』と顧客に説明するように教えた」という。「その人が何で生活を豊かにしたいのかという欲求を見つけて、それに沿った訴求すればヒットにつながる」(同)。