国際通貨研究所理事長の行天豊雄氏
国際通貨研究所理事長の行天豊雄氏
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「米国景気が回復に向かうのは2010年以降になるだろう」。2008年11月18日、『金融ITイノベーション 2008 Autumn』の基調講演に登壇した財団法人国際通貨研究所理事長の行天豊雄氏は、世界経済の今後の展望と、米国金融危機後の金融ビジネスについて意見を述べた(関連記事:「ライフスタイルに響くマーケティングが必要に」 -- 金融ITイノベーション 2008 Autumnパネルディスカッション)。

 まず、金融危機に直面している世界経済の現状に言及し「証券化商品の市場が成立しておらず価値が分からない。そのため企業の資産価値が分からない」と指摘した。資産価値が評価できないため、企業は取引先に対して信用度を証明できず、流動性が極端に収縮しているという。評価はできなくとも、「企業の資産価値は相当程度劣化しているのは間違いないだろう」(行天氏)。

 金融市場の混乱は「10月半ばに比べれば落ち着ついた」(行天氏)が、景気の底打ちはまだ先になりそうだ。米国の住宅価格は2006年のピーク時と比較して10%超も下落したが、いまだに下がり続けている。「さらに10%以上は下がらないと正常ではない」という専門家の意見も聞かれるという。「米国景気の底打ちは早くて来年で、回復に向かうのは2010年以降になるだろう」(行天氏)。また、懸念事項として「保険業界にはまだ火種が残っている」と述べた。

 それでは景気が底打った後、金融ビジネスはどのように回復していくのだろうか。行天氏は、今後の金融ビジネスモデルは「伝統的な商業銀行モデルへの回帰」と考える。今回の金融危機の元凶は「金融産業があまりにもレバレッジを高くしすぎていたことだ」(行天氏)。今後の金融ビジネスは、できるだけ債務を増やさずに、レバレッジを減らしていくのがトレンドになるだろう。そのために金融ビジネスモデルは、預金を資金源とする伝統的な商業銀行モデルに回帰する。

 また、金融自由化の行き過ぎが今回の破たんを招いたとして、金融自由化と規制撤廃に対する風当たりが強まっている。オバマ次期米国大統領も演説で“re-regulation(再規制)”という言葉を多用している。今後の金融規制強化は避けられないだろう。自由化も規制強化も、行き過ぎれば問題が生じる。しかし今回始まった金融規制強化の動きは、「行き過ぎるところまで進むだろう」(行天氏)。金融自由化が完全でない日本にとって、これは良くない流れだという。

 「今回の金融危機により公的金融機関がリスクの高い資産を抱えた」---行天氏は、金融ビジネスの回復を予想する一方で、今後の金融市場への不安も口にした。金融危機下で、各国政府は公的資金を投入して不良債権の買い取りを行った。これにより、民間金融機関のB/S(貸借対照表)は縮小し、公的金融機関のB/Sは肥大した。問題は、公的金融機関が抱えた資産のリスクが非常に高いことである。この資産が今後どのように展開するのかは不透明だ。「肥大したものが劣化するのは非常に危険だ」(行天氏)。