写真1●IPTVフォーラムの構成員でもある慶應義塾大学の村井純教授
写真1●IPTVフォーラムの構成員でもある慶應義塾大学の村井純教授
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写真2●NTTコミュニケーションズの有馬彰代表取締役副社長
写真2●NTTコミュニケーションズの有馬彰代表取締役副社長
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写真3●オンデマンドWGの主査を務める東京放送の福井省三執行役員
写真3●オンデマンドWGの主査を務める東京放送の福井省三執行役員
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 国内IPTVの仕様検討を進めてきたIPTVフォーラム(主査:安田靖彦東京大学名誉教授)は2008年6月9日にオープンセミナーを開催し,IPTV受信機用の技術仕様案が完成したことを報告した。これにより,将来的には市販のテレビなどに国内標準のIPTV受信機能が内蔵され,一つの端末で異なる事業者の様々なサービスを利用可能になる。これまでは各IPTVサービスごとに,それぞれ専用の受信機を用意する必要があるのが一般的だった。

 IPTVフォーラムは2006年10月に発足した,通信事業者とテレビ局,メーカー各社らが参加する任意団体(関連記事)。IPTVサービスの技術基準や運営ルールを議論することを目的として,IP再送信やIP放送サービスについて検討するIPマルチキャストWGと,ビデオ・オンデマンド(VOD)サービスについて検討するオンデマンドWGに分かれて仕様の策定を進めてきた。会合の数は数百回を重ね,技術仕様案は合計で2380ページに及ぶ長大なものになったという。

 オープンセミナーの冒頭で挨拶した慶應義塾大学の村井純教授(写真1)は「これまで国内のIPTV仕様は,(アクトビラなどが採用する)デジタルテレビ情報化研究会が作成した仕様と,(NTT,KDDIと家電メーカーなどが基になって作成しNTTぷららのひかりTVで採用する)IPSP仕様などがバラバラに存在していた。これらを内包するIPTVフォーラムの技術仕様が完成したことで,テレビに標準的にIPTV受信機能を内蔵するような展開が見えてきた。世界の見本になるようないい仕様ができ,今後国際的にも貢献できる」と強調。市販のテレビが標準的に受信機能を搭載し,様々なネットワークを通じて多様なサービスが利用可能になることの意義を述べた。

 同じく挨拶したNTTコミュニケーションズの有馬彰代表取締役副社長(写真2)は,「3月31日に開始したNTTグループのNGNは,まさにIPTV用のネットワーク。NTTグループはIPTVサービスとしてひかりTVを提供しているが,IPTVフォーラムの議論を踏まえている。今後調整が必要になれば,ひかりTVの仕様を合わせていく」と語り,IPTVフォーラムの仕様に準拠する姿勢を見せた。

七つの仕様書で構成,将来のサービス拡張にも対応

 今回公開した技術仕様は,大きく七つの仕様書で構成する。内訳は,サービスの基本的な形を記述した配信サービス仕様として「VOD仕様」「ダウンロード仕様」「IP放送仕様」の3種を用意。これらの基本サービスに対するアプローチの仕方を記したサービスアプローチ仕様として,「放送連携仕様」「インターネットスコープ仕様」「CDNスコープ仕様」の3種を用意した。これらに,IP再送信の運用規定を記した「IP再送信運用規定」を加えて全7種となる。

 3種類の基本的なサービスごとに,それぞれ三つのサービスアプローチが存在する形になる。「これにより,将来的に技術的な発展が現れた際にも,サービスアプローチ仕様を追加することで対処できる」(オンデマンドWGの主査を務める東京放送の福井省三執行役員,写真3)。また7種類の仕様に分けたことは,「フルスペックを搭載しない端末を開発する際に,2380ページ全てを読まなくても済むように」(同)という配慮もある。各仕様については,IPSP仕様とデジタルテレビ情報化研究会の仕様をベースに,ARIBの各種規格を多く参照する形になっているという。

IPTVフォーラムは解散,新団体で国際標準化団体に提案

 IPTVフォーラムは,今回の技術仕様案の公開を持って解散する。「IPTVフォーラムは民間の任意団体であり,技術仕様案に含まれる知的財産所有権や著作権などを処理する上で組織としての限界が訪れている」(事務局)。今後は,6月中に新たな団体を立ち上げ,そちらで技術仕様を維持していく形になる。「新団体が国内のIPTV標準を固めた上で,ITU-Tなどの国際標準化団体に提案を進めていく」(事務局)。新団体では,技術仕様に沿った機器の相互接続テストなどを実施することも検討するという。