写真1●バルセロナのMobile World Congress 2008の会場で会見する仏アルカテル・ルーセントのパトリシア・ルッソCEO(左)とNECの矢野薫社長(右)。会見の模様は日本にも中継で伝えられた。日本にいる報道陣向けにも質疑応答の時間が特別に用意されていた。
写真1●バルセロナのMobile World Congress 2008の会場で会見する仏アルカテル・ルーセントのパトリシア・ルッソCEO(左)とNECの矢野薫社長(右)。会見の模様は日本にも中継で伝えられた。日本にいる報道陣向けにも質疑応答の時間が特別に用意されていた。
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 NECと大手通信機器ベンダーである仏アルカテル・ルーセントは2008年2月12日,スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress 2008」(関連記事)で,NGN(次世代ネットワーク)や3.9世代の携帯電話システム「LTE」(long term evolution,関連記事)などの次世代モバイル技術を含んだ幅広い分野で協業していく方針を発表した。

 協業の第1弾として,LTE開発・製造を進める合弁会社を近く設立する。両社の既存の3Gの顧客ベースを生かしながら通信事業者のLTE移行を促し,2009年にLTEの商用システムを実現することを目指す。狙いは,LTE開発にかかる開発リソースを分担できること。「LTEへの投資額を半分にするのではなく,2倍にして開発を加速する」(アルカテル・ルーセントのパトリシア・ルソーCEO,写真1左)。

 現地の会見に出席したNECの矢野薫社長(写真1右)は「合弁会社はLTEの開発,製造のために設立する。合弁会社はあくまで協業の第1ステップ。両社が幅広い範囲で協業することで合意した上でスタートしている」と説明。NECとアルカテル・ルーセントが組んだ理由については「LTEが実現するワイヤレス・ブロードバンドでは,新たなサービスの登場が期待される。新サービスはIPとネットワークの融合が重要。NECと持つNGNとIP関連の技術,アルカテル・ルーセントが持つIP技術や顧客基盤などを結集することで,よりよい商品を作ることができる」(NECの矢野社長)と語った。

 新会社は2008年1月に合弁会社設立に関する覚え書きを締結済み。今後半年以内に合弁会社がスタートする予定で,研究開発の協力は既に開始しているという。「今後は両社で製品戦略,プラットフォーム,ロードマップ,予算管理を一本化していく方針」(NECの矢野社長)。なお出資金額や新会社の規模は明かにしなかった。「最初は会社の規模はそれほど大きくない。両社合わせてトータルで1000人ほどのエンジニアはいるが,一度に集まるのではなく徐々に両社から人を出していく形になる」(NECの矢野社長)という。

 両社は日本を含む世界市場において協力関係を築くが,販売面に関しては基本的には両社がそれぞれ既存の顧客に対して提供する形になる。例えばNECはNTTドコモの「Super 3G」の開発ベンダーに選定(関連記事),アルカテル・ルーセントは米ベライゾン・ワイヤレスのLTE構築計画に機器ベンダーとして参加しているが,合弁会社で開発,製造したシステムは,それぞれが「自社の顧客通信事業者に対して今後とも個別に提供していく」(アルカテル・ルーセントのルソーCEO)という。

 今回の提携に関する投資額などは非公表。LTEの機器市場シェア目標として,「2012年ころにはLTEの市場はかなりの拡がりを見せているだろう。その時点で合弁会社はマーケットのトッププレーヤーになっていたい」(NECの矢野社長)と語った。

アルカテル・ルーセントは富士通と,NECはノキア・シーメンスと提携の過去

 実は両社ともに,かつて別の機器ベンダーと提携関係を結んでいた過去を持つ。アルカテル・ルーセントは2000年に,富士通とW-CDMAの開発についての合弁会社「エボリウム」を立ち上げた経緯を持つ。NECも2007年2月に,フィンランドのノキア・シーメンス・ネットワークスと3Gの携帯電話向け基地局事業で提携している。

 会見でこの点について問われたアルカテル・ルーセントのルッソCEOは「過去の提携とは時代が異なる。富士通との合弁会社はマーケットに対して遅い段階の提携だった。今回はLTEの初期段階の提携であり,両社で統合された製品を作り出すという大きな違いがある。過去から学んだことも多い」と答えた。

 NECの矢野社長は「ノキア・シーメンスとの提携は,素晴らしいW-CDMAの製品を作ることができ成功だったと捉えている。しかしより広範なビジネスの将来を考えたとき,LTEはワイヤレス・ブロードバンド上で実現する各種のアプリケーションも重要になる。そこで我々はアルカテル・ルーセントをパートナーとして選んだ」と回答。新たな相手との協業のメリットを強調した。

 なおアルカテル・ルーセントは現在,CDMA2000方式の機器市場において大きなシェアを持っている。CDMA2000方式のマイグレーション・パスとしてLTEに相当する3.9世代の技術は「UMB」(ultra mobile broadband)だが,今回アルカテル・ルーセントがLTEの合弁会社を設立したことは,CDMA2000方式を採用するユーザーにLTE移行を促す動きなのか,さらにはCDMA2000方式の事業の売却の第一歩になるのかという質問も出た。この点に関してアルカテル・ルーセントのルッソCEOは「CDMA2000のユーザーはいくつかの異なった移行の選択肢を持つ。どのような手段を選択しようともサポートするのが我々のポジション。UMBの開発作業にも取り組んでおり,今回の協業はある部門を売却,スピンオフするものではない」と説明した。