写真1●モバイルWiMAX基地局「BroadOne WX300」
写真1●モバイルWiMAX基地局「BroadOne WX300」
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 富士通は2008年2月6日,小型のモバイルWiMAX(IEEE 802.16e)基地局装置「BroadOne WX300」を発表した(写真1)。2008年4月から出荷を開始し,トライアル向けには出荷の前倒しにも応じるという。

 同社の戦略的商品としての位置付けで,同社の岩渕英介常務理事モバイルシステム事業本部長は「今後5年間で10万台の出荷を目指す。富士通のWiMAX事業全体として,今後3年間で世界シェア20%を獲得したい」(写真2)との抱負を述べた。

「ここまで高出力なものでは世界最小サイズ」

写真2●富士通の岩渕英介常務理事モバイルシステム事業本部長
写真2●富士通の岩渕英介常務理事モバイルシステム事業本部長
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 BroadOne WX300は,無線送受信装置とベースバンド処理装置を一体としたモバイルWiMAX基地局装置。重さは約20キログラム,容積が約20リットルとランドセル程度のサイズながら,数キロメートルのカバーが可能な10ワットのアンテナ出力を2系統備えている。

 「出力が2ワット程度で同程度のサイズの製品は存在するが,10ワット×2まで出力が大きいタイプとしては,間違いなく世界最小サイズ」(岩渕本部長)。2系統のアンテナ出力を使ってMIMO(multi-input multi-output)による伝送にも対応する。

 本体は防雨防水仕様。設置が簡単で借地代や電気代を抑えられるメリットがある。「通常の基地局では800万円程度の設置コストがかかるが,BroadOne WX300ではその半分程度のコストで済む。電気代などのランニング・コストも3分の1程度に抑えられる」(岩渕本部長)。「モバイルWiMAXは世界的に見ても新規参入事業者が採用するケースが多いが,その際には基地局用地の確保がネックになる。場所をとらない小型一体型の基地局に対するニーズは高い」(岩渕本部長)とした。

 出力を確保しながら本体を小型化できたポイントとして岩渕本部長は,自社開発した高効率アンプの存在を挙げる。「入力信号をデジタル領域で歪み補正する回路を開発することで,アンプ効率を大幅に向上させた。通常はアンプの歪み成分を第2アンプを使って打ち消すため,電力を消費するほか小型化が難しかった」(同)。

 なお同社は,固定系WiMAX(IEEE 802.11d)の主力ベンダーとして知られる米エアスパン・ネットワークスとWiMAX事業で提携することも発表した。エアスパンが持つ屋内用の小型基地局も富士通の基地局ラインアップとしてそろえる。

WiMAXとLTE機器市場は2011年度に4000億に達すると試算

 会見では,富士通のワイヤレス・ブロードバンド機器市場の戦略も示した。同社はWiMAXフォーラムのボードメンバーとしてモバイルWiMAX事業に注力する一方,NTTドコモが提唱する第3世代携帯電話(3G)の拡張規格「Super 3G」のベンダーとして試験用基地局を納入するなど(関連記事),3.9世代の携帯電話規格「LTE(long term evolution)」にも力を入れている。

写真3●富士通の弓場英明経営執行役上席常務テレコムビジネスグループ長
写真3●富士通の弓場英明経営執行役上席常務テレコムビジネスグループ長
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写真4●富士通によるWiMAXとLTEの機器市場規模の予測。2011年に約4000億円規模の市場を予測し,そのうちの半分以上をWiMAXが占めている
写真4●富士通によるWiMAXとLTEの機器市場規模の予測。2011年に約4000億円規模の市場を予測し,そのうちの半分以上をWiMAXが占めている
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 同社の弓場英明経営執行役上席常務テレコムビジネスグループ長(写真3)は,「モバイルWiMAXとLTEの両面に注力していくが,両者は開始時期と利用方法に違いが出る」と説明する。時期的にはモバイルWiMAXが2008年から徐々にスタートするなど先行し,LTEは2009年ころから本格化すると予測。利用方法では,LTEが現在の携帯電話の進化系である一方,モバイルWiMAXは無線LAN的な使い方でより広いエリアをカバーする技術と位置付けた。

 その上で「モバイルWiMAXは,固定アクセスの代替としても有力。携帯電話とは異なる可能性を持っている」(同)と説明する。2010年には世界で4800万人の加入者がWiMAXを利用するという同社の予測も披露した。WiMAXとLTEを合わせた機器市場は,「2011年には世界で4000億円の市場になる」(同,写真4)と予測した。

 国内のモバイルWiMAXの動向については,KDDIなどが出資するワイヤレスブロードバンド企画が2.5GHz帯の事業免許(開設計画の認定書)を獲得し,モバイルWiMAXの事業化を目指しているほか(関連記事),デジタルデバイド対策向けのモバイルWiMAX用固定系地域バンドの免許申請が3月に予定されている(関連記事)。岩渕本部長は「(ワイヤレスブロードバンド企画には)現在提案している段階。デジタルデバイド向けも含めて,ぜひ国内でトップシェアを狙いたい」と語った。

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