写真1●左からアッカ・ワイヤレスの木村正治代表取締役社長,ワイヤレスブロードバンド企画の田中孝司代表取締役社長,オープンワイヤレスネットワークの孫正義代表取締役,ウィルコムの喜久川政樹代表取締役社長
写真1●左からアッカ・ワイヤレスの木村正治代表取締役社長,ワイヤレスブロードバンド企画の田中孝司代表取締役社長,オープンワイヤレスネットワークの孫正義代表取締役,ウィルコムの喜久川政樹代表取締役社長
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 総務省は11月22日,2.5GHz帯事業免許を申請した4社を集めた公開カンファレンスを開催した(写真1)。出席したのは,ウィルコムの喜久川政樹代表取締役社長,オープンワイヤレスネットワークの孫正義代表取締役,ワイヤレスブロードバンド企画の田中孝司代表取締役社長,アッカ・ワイヤレスの木村正治代表取締役社長の4人(申請順)。オープンワイヤレスネットワークの孫氏が,事前の一部報道で有利とされたワイヤレスブロードバンド企画とウィルコムにかみついたことから議論は白熱した。

 申請中の4社は,ウィルコムは単独,それ以外の3社は国内の主要通信事業者をはじめ様々な企業が出資するジョイント・ベンチャー。オープンワイヤレスネットワークにはソフトバンクとイー・アクセスが,ワイヤレスブロードバンド企画にはKDDIが,アッカ・ワイヤレスにはアッカ・ネットワークスとNTTドコモが出資している。

 カンファレンスでは,まず,4社の代表が自社のサービスや申請内容についてプレゼンテーションを行った(表1)。ウィルコムは,動的チャネル割り当て(DCA)によるマイクロセルの優位性と,MVNO(仮想移動体通信事業者)や端末のオープン化の実績をアピール。オープンワイヤレスネットワークは,MVNOへのネットワーク卸売りを事業とすることを「MVNO中心主義」と説明し,さらに実質的な運営者であるソフトバンクとイー・アクセスのブロードバンドでの実績を強調した。

表1●カンファレンスで明らかになった2.5GHz帯の免許を申請した4社の事業計画

社名 ウィルコム オープンワイヤレスネットワーク ワイヤレスブロードバンド企画 アッカ・ワイヤレス
採用規格 次世代PHS モバイルWiMAX
サービス
開始時期
試験サービス:2009年4月
商用サービス:2009年10月
2009年3月 試験サービス:2009年2月
商用サービス:2009年夏
2009年3月
計画する
加入者数
約390万加入 400~1700万加入 約560万加入 2009年:25万加入
2013年:500万加入
エリア展開計画
(人口カバー率)
2011年度末:56.6%
2012年度末:90.6%
2008年度末:16.7%
2009年度末:49.9%
2011年度末:78.5%
2014年度末:91.6%
2012年度末:90%超 2009年末:約30%
2010年末:約50%
2011年末:約50%(総合通信局の
管轄区域ごとで)
2012年末:約70%
料金 ARPUで4000円以下 1000円台~5000円台 非公表 4000円以下の定額制
設備投資額 2015年度末までに
累計約2000億円
2014年度末までに
累計約2500億円
2013年度までに
累計1440億円
累計2000億円
収入 非公表 2014年度で1089億円 2013年度で1440億円 2009年:60億円
2013年:1500億円

 ワイヤレスブロードバンド企画は,筆頭株主であるKDDIの沖中秀夫氏がWiMAXフォーラムのボード・メンバーに就任していることや,標準化団体であるIEEE 802委員会のワーキング・グループに議長を輩出していることなどの技術力をアピールした。アッカ・ワイヤレスは,アッカ・ネットワークスが主導権を取ることで,携帯電話・PHS事業者との中立的な立場を取れると主張した。

質疑応答は孫氏が主役で進む

 各社のプレゼンテーション終了後,事業者同士の質疑応答に移った。議論で主役となったのは,オープンワイヤレスネットワークの孫氏である。ウィルコムとワイヤレスブロードバンド企画には,2.5GHz帯の周波数を割り当てるべきではないとの論陣を張った。

 次世代PHSを推進するウィルコムに対しては,「2.5GHz帯は世界中でモバイルWiMAXに利用される見込みだ。(ウィルコムが免許を獲得すると)国内のモバイルWiMAX事業者は1社独占になり構造としてよくない。現行の1.9GHz帯でも工夫すれば余裕があるのではないか。または,アイピーモバイルが返上した2GHz帯跡地で事業をすることは不可能なのか」と問いかけた。

 ワイヤレスブロードバンド企画に対しては,「(筆頭株主である)KDDIは第3世代携帯電話で2GHz帯を有効利用していない。7年間で6200基地局しか設置していない。私から見れば前科1犯だ。使い切っていないのに電波を欲しがるのはどうかと思う」と非難。「2.5GHz帯でのサービスは,パソコン中心なのか携帯電話中心なのか。携帯電話中心で考えているならば,2GHz帯を使ってから割り当てを求めて欲しい」と質問した。

 ウィルコムの喜久川社長は,2.5GHz帯が20MHz幅または30MHz幅を使えるのに対し,2GHz帯は15MHz幅しかないと「周波数幅もフェアに考えて欲しい」と反論。「1.9GHz帯に余裕はない。2GHz帯はIMT-2000バンドで,次世代PHSは入っていないが,モバイルWiMAXは一方式として採用されている(関連記事)。モバイルWiMAXを採用する方が2GHz帯に行けばいいのではないか」と切り返した。

 ワイヤレスブロードバンド企画の田中社長は,「パソコンか携帯電話かと言われれば,パソコンをベースに市場を作る。しかし,パソコン向けのサービスだけでは見込めるユーザーが少なく,ビジネスが成り立たない。携帯電話とパソコンの中間にある新しい市場をいかに切り開くかがポイントだと思っている」と回答。具体的には,UMPC(ultra-mobile PC)やMID(mobile internet device)の販売プロモーションを行うとした(関連記事)。

 これに対して孫氏は,「誰が日本を世界一ブロードバンドが安くて速い国にしたのか。誰が一番この分野で“毛が抜ける”ほど頑張ったのか。パソコンを使ったブロードバンドのワイヤレス化ということであれば,我々の方が得意である」と,Yahoo!BBでの実績をアピールした。

孫氏はアッカ・ワイヤレスにはラブコール

 さらに,ワイヤレスブロードバンド企画に対しては,「KDDI陣営の事業計画はKDDI中心主義に思える。MVNOにネットワークを開放するとしているが,フェアな条件でネットワークを提供する気はあるのか」(オープンワイヤレスネットワークの孫氏)とMVNOの実現性に疑問を投げかけた。

 ワイヤレスブロードバンド企画の田中社長は「事業立ち上げの段階では,我々自身が垂直統合的にサービスをすることもある。だが,MVNOは重要なビジネス・パートナーだと考えている。MVNOの専用窓口を設けたり,MVNO向け標準プランを公開したりするなど支援する計画もある」と反論した。これに対して孫氏は,カンファレンス終了後に「KDDIは卸売りの経験がない事業者だけに,自社と競合するかもしれない事業者をフェアに扱えるか不安がある」と漏らすなど最後まで不信感をぬぐえなかった様子だ。

 その一方で,「アッカの計画は我々と近いように見える。力を合わせることもできるのではないか」(オープンワイヤレスネットワークの孫氏)とアッカ・ワイヤレスにはラブコールを送る一幕があった。

 今後の免許の行方は,事前に決められたプロセス通り,総務省と電波監理審議会に委ねられた。12月中には,2.5GHz帯の事業免許を割り当てる事業者が発表される見込みである。だが,孫氏は「密室で決めるのは納得がいかない」と気炎を上げており,今後も一悶着ありそうだ。

■変更履歴
表1のオープンワイヤレスネットワークの料金を「ARPUで1000円台~5000円台」としていましたが、正しくは「1000円台~5000円台」です。お詫びして訂正します。表1は修正済みです。 [2007/11/24 12:18]
表1のアッカ・ワイヤレスのサービス開始時期は「2009年3月」でした。お詫びして訂正します。表1は修正済みです。 [2007/11/25 00:04]