写真1●9月17日(米国時間)に開かれた記者向けインテル研究開発説明会の会場
写真1●9月17日(米国時間)に開かれた記者向け研究開発説明会の会場
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 米インテルは9月17日(米国時間),米サンフランシスコで世界各国の記者に向けて研究開発の最新動向を発表した(写真1)。マルチコアを生かすためのソフト技術と,消費電力の削減という二つのテーマに触れた。いずれも最近特に焦点となっている話題である。


マルチコアを生かすにはソフト技術が不可欠

 インテルはマルチコアの性能を引き出すソフト技術の研究を進めている。「複数のコアを搭載したプロセッサの性能を最大限に引き出すには,ハードとともにソフトからのアプローチも必要不可欠だ」。テラ・スケール・コンピューティング・リサーチのコ・ディレクターであるJerry Bautista氏はこう語る。

 同社のx86系プロセッサはデュアルコア,そしてクアッドコアへと進化を遂げた。インテルは一つのダイに80コアを載せたプロセッサのプロトタイプも開発している。コア数の増加とともに重要テーマとして浮かび上がってきたのが,ソフトウエアをどう最適化するかである。その処理内容によっては,効果的にコアに負荷を分散できないことがある。

写真2●インテルはマルチコアの性能を引き出すために,ハードとソフトの両面から研究を進めている
写真2●インテルはマルチコアの性能を引き出すために,ハードとソフトの両面から研究を進めている
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 画像のレンダリングなど並列化しやすい処理は特にマルチコア向きと言える。複数のコアに処理を割り振り,同時に処理させる,といったことが容易である。だが,順番に処理しなければならないタスクは,マルチコアのメリットが出にくい。順を追った処理を強いられるタスクがプログラムに多く含まれていると,コア数を増やしても処理性能の向上が期待できない。

 だからこそマルチコアを生かす上では,並列化できるタスクを可能な限り見つけ出し,それをプログラムとして表現し,各コアに負荷を均一に振り分けられるようにする,といった取り組みが大切になる(写真2)。また,インテルは以前からソフトの並列化を支援するライブラリ製品「Threading Building Block」の提供を続けており,今後も洗練させるという。

 処理を並列化できた次に乗り越えるべきは,共有メモリーへのアクセスをどう制御するかである。インテルはメモリーへの排他制御をせずに並列処理させ,競合が発生したときだけ処理をやり直すというアプローチ「Transactional Memory」を研究してきた。9月17日(米国時間)から,研究成果としてC++向けコンパイラのプロトタイプの提供を開始した。インテルのWebサイトからダウンロードできる(写真3)。

 テラ・スケール・コンピューティング・リサーチのコ・ディレクターであるJerry Bautista氏は,「テラ級のコンピューティング・パワーを引き出すために,ソフトの開発・実行環境全体をマルチスレッド処理に向けて最適化していく」と宣言する。このような環境をインテルは「Thread-Savvy(聡明な) Execution Environment」と呼ぶ(写真4)。

写真3●「Transactional Memory」のC++向けコンパイラ(プロトタイプ)を提供開始した。   写真4●テラ・スケール・コンピューティングを支える「Thread-Savvy Execution Environment」
写真3●「Transactional Memory」のC++向けコンパイラ(プロトタイプ)を提供開始した。
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  写真4●テラ・スケール・コンピューティングを支える「Thread-Savvy Execution Environment」
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ハードやデータセンター全体で省電力化

 近年,ハードの消費電力の増加と,それに伴う発熱量の増加が大きな課題となってきている。その動きに呼応するように,「グリーンIT」という言葉が徐々に使われ始めている。

写真5●消費電力を最適化させるための三つのアプローチ
写真5●消費電力を最適化させるための三つのアプローチ
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 インテルはチップセットやメモリーなどを含めたハード全体,あるいはデータセンター全体で消費電力を削減するための技術を研究している。「モバイル機器,デスクトップやサーバー,データセンター,いずれの観点から見ても,消費電力の削減が実現できれば,利用者に大きなメリットが生まれる」。システム・テクノロジー・ラボのディレクターであるRaj Hazra氏は,省電力化の重要性を強調する。

 取り組みのアプローチは三つ。一つはソフトでハードを制御することで消費電力を最適化するもの。二つ目は,ハードウエアへの電源供給方法を変えるもの。三つ目は,データセンター全体で電源を管理し最適化を図るものである(写真5)。

 パソコンやサーバーなどのコンピュータは,外部から得たAC(交流)をDC(直流)に変換している。電源ユニット内で交流(AC)と直流(DC)の相互変換や交流同士の変換が何度も起きており,その過程でロスが生まれている(関連記事:【IDF Fall 2006】「巨大データセンターの時代に備えよ」とインテルのラトナーCTO )。インテルは成果の一つとして,外部から得る電源をACからDCに切り替え,サーバー内でDC電源をそのまま使うようにすることで,ラック全体の消費電力を200W近く下げるというデモを見せた(写真6写真7)。

写真6●電源供給方式をAC(直流)からDC(交流)に変えたラックのデモ。200W近く消費電力を削減した   写真7●写真6のデモで使ったラック
写真6●電源供給方式をAC(直流)からDC(交流)に変えたラックのデモ。200W近く消費電力を削減した
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  写真7●写真6のデモで使ったラック
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 「インテルにとって消費電力の削減は大きなテーマ。そこには研究開発が貢献できる大きなチャンスがある」(Hazra氏)。

 米国時間9月18日から20日にかけて,開発者会議「IDF(Intel Developer Forum)」が開催される。年末までに登場する新プロセッサ・ファミリ「Penryn」,2008年に投入する予定の新マイクロアーキテクチャ「Nehalem」について,より踏み込んだ内容が公開されそうだ。