「YouTubeは毎日1億本以上のビデオを配信し,Yahoo!は毎日30億のページ・ビューがある。データセンターの需要は信じられないほど大きい」。

 こう語ったのは,サンフランシスコ市で開催中の「Intel Developer Forum」の初日にポール・オッテリーニCEO(最高経営責任者)に続いて基調講演に登壇したジャスティン・ラトナーCTO(最高技術責任者)。ラトナーCTOは,今後出現するであろう巨大なデータセンター「メガ・センター」をキーワードに,メガ・センター時代に必要な技術について熱弁をふるった(写真1)。

写真1●インテルのジャスティン・ラトナーCTO

アプリはデータセンターから配信される

 なぜ巨大なメガ・センターが登場するのか。それは「インターネット・サービスの需要が高まっている」(ラトナーCTO)からに他ならない(写真2,3)。例えば,ロケーションに基づくサービス,ユーザー間で共有できるカレンダー,オンライン・ゲームなどだ。実際,ラトナーCTOは「AjaxやRuby on Railsなどのフレームワークにより,素晴らしいアプリケーションがオンラインで提供されている。IDCの調査では,半分以上のユーザーがアプリケーションをオンデマンド型で提供してほしい,と回答している」と指摘する。

写真2●コンシューマ・サービス向けのデータセンター需要が増加している

写真3●巨大データセンター運営の専門家として米グーグルのルイス・バロッソ氏が登場

 つまり「アプリケーションはパソコンにインストールするものから,オンデマンド型でデータセンターから配信されるものへと変わりつつある」と言うのだ。このトレンドを支えるのがメガ・センターというわけである。

 データセンターからアプリケーションの配信を受ければ管理コストも下がる。「ノートPCが破壊されても,データはすべてデータセンターにあるので,別のノートPCを持ってくればすぐに前の状態に戻せる」(ラトナーCTO)。

 同CTOによれば,コンシューマ向けサービスのためのデータセンターが今後は急増し,2011年までにデータセンターの需要は現在の9倍に膨れ上がるという。そして,巨大なデータセンターが増えれば,「ストレージや電力,セキュリティの新たな問題が生じるので,それを解決する必要がある」(ラトナーCTO)。

 ストレージについては,「ストレージのギャップ」問題が発生している,とラトナーCTOは指摘する。メモリーはアクセスの遅延が少ないが高額。一方,ハードディスクは安価だが遅延が大きい。このメモリーとハードディスクの間に大きなギャップがあり,その中間がない。このため,メモリーの階層構造を見直す必要が生じているという。

 電力消費も大きな課題。現在,電源ユニットの効率は55~70%で,残りは熱として放出されている。データセンターではこの電源ユニットの効率の悪さが問題になっている。これは電源ユニット内で交流と直流の相互変換や交流同士の変換が何度も起こるからだ。そこでインテルはこの問題を解決するために,シンプルな構成で電流の変換回数を減らした新型電源ユニットを開発し,効率を90%にまで高めた(写真4)。このユニットはすでに実用段階に入っているという。

写真4●シンプルな構成の電源ユニットで無駄な電力消費を抑える

 メガ・センター時代は,膨大な情報をデータセンターで扱う。こうなるとデータセンターの外からの攻撃に備えるのはもちろんだが,内部からの攻撃にも備えなければならない。万が一,データセンターに攻撃者が入ってしまえば,自由にトラフィックの中身を見られてしまうからだ。

 この内部からのセキュリティ対策としてインテルが唱える技術が「Linksec」である。これは社内やデータセンター内ネットワークで通信する際もデータを暗号化する技術。IPsecのように端末間のエンド・ツゥ・エンドではなく,機器間でそれぞれ暗号化し,運用効率を上げるという(写真5)。

写真5●Linksecの概念

三つのTの時代に向けて研究開発

 インテルはこのような数々の技術を通して,データセンターの性能改善を図ってゆく。「サーバー数100万台のデータセンターの構築には膨大な面積と500メガワットもの電力が必要。この電力は280万世帯が消費する電力以上。サーバー性能,密度,エネルギー効率の改善が重要になる」(ラトナーCTO)。

 最後にラトナーCTOはデータセンターの性能や密度などを大幅に改良する研究として「三つのT」から成るテラ・コンピューティングを紹介した。三つのTとは,「テラオペレーションズ」の計算能力,「テラバイト」のメモリーバンド幅,「テラビット」のI/Oバンド幅のことだ。

 ラトナーCTOはテラ・コンピューティングを実現するために開発した超高性能プロセッサの「テラフロップ・プロセッサ」(写真6,7)や,カリフォルニア大学サンタバーバラ校と共同開発したI/Oバンド幅を劇的に高める「ハイブリッド・シリコン・レーザー」のデモを披露,講演の幕を閉じた。

写真6●80個のコアからなるテラフロップ・プロセッサ。なお,いわゆるインテル・アーキテクチャとは互換性はない

写真7●テラフロップ・プロセッサの中身