米Microsoftが米GoogleのWeb対応オフィス・プロダクティビティ・スイート「Google Apps」を競合製品として気にしているかどうかについて,これで疑問に思うことはなくなった。MicrosoftがGoogle Appsに対する奇妙な声明を出しているのを,米メディアZDNetのブロガーMary Jo Foley氏が初めて紹介したのだ。声明を読むと,Microsoftは独占状態にある「Office」プラットフォームがGoogle Appsに浸食され始めるだろうと非常に懸念していることが分かる。

 Microsoftの広報担当者が書いた声明には「当社は企業顧客の複雑な要望に対応してきた長い歴史を持つことに加え,2006年に比べて43%増えたOffice関連パートナと,現在から将来にわたって実行するソフトウエアおよびサービスの分野に対する投資により,顧客にかつてない柔軟性を提供します」とある。「競争は,顧客と業界の両方にメリットをもたらすと確信しています。ただし,顧客からは『Microsoftのソリューションが企業の必要とする使いやすさ,信頼性,セキュリティを備える』との意見をいただいています」(声明)。

 問題の声明はこのように始まり,企業がGoogle Appsへの移行を検討する際に尋ねるであろう想定質問を10個列挙している。質問のなかには「企業内で本当にGoogle Appsを使っているユーザーは何人いますか」といった具合に,現在クラウド・コンピューティングが初期段階に過ぎないことを考えると的外れな質問もある。こうしたものを除くと,Google Appsのような新たなアプリケーション利用体系への移行を検討している企業があわてて懸念を文章にしたと想定すれば,残りの質問は筋が通っている。

 例えば2番目の質問は「Googleは,未完成のソフトウエアをベータ版と称してリリースしてきました。アップデートのリリース・スケジュールは『Googleのみぞ知る』という状況です。これは,企業が技術パートナに求め,必要とする条件と相いれません。Googleの行動は,顧客の必要性に沿っているといえるでしょうか」だ。確かにその通りである。もっとも,Microsoftの「Windows Live」も“ずっとベータ版のまま”で「Googleとそっくり」という指摘もあるだろう。

 8番目の質問からは,別の懸念が読み取れる。「仕事の現場は常に動いており,常に接続しています。そのため,技術サポートを24時間365日利用できなければなりません。Google Appsを導入した企業で技術的な問題が太平洋沿岸標準時(PST)の午後8時に発生したら,不運だったと思いましょう。Googleの技術サポートの受付時間は,月曜日から金曜日のPST午前1時から午後6時です。グローバル・ビジネス時代の勤務時間はこの時間帯に変わるのでしょうか。もし企業が“指定された管理者”に問い合わせできないと,業務が止まるのでしょうか」。

 このように,現時点でGoogle Appsは企業向けであるとは言い難い。ところが「Gmail」ベースの電子メール,オンライン・スケジュール管理,基本的なレベルのワードプロおよび表計算といった機能を備えるGoogle Appsには,多くの消費者や学生,小企業,その他組織のニーズに応える可能性がある。

 Microsoftがこうした場当たり的な対応をしたのは,コンサルティング・サービス会社のフランスCapgeminiが9月10日(現地時間)に行った「大企業向けにGoogle Appsを1ユーザー当たり年額50ドルで再販する」という発表がきっかけだろう(関連記事:Capgemini,Google Apps有償版向けのサポート業務でGoogleと提携)。Capgeminiはフランスに拠点を置き,大手企業である米Eli Lillyと米PricewaterhouseCoopers(PwC)の代理を務めている。また,CapgeminiがMicrosoftやその他ベンダーの販売したソフトウエアをサポートしている点も注目に値する。

 真の問題は,もちろん「現時点でGoogle AppsがMicrosoft Officeプラットフォームの対抗馬となりうるか」ではない。明らかにGoogle AppsはOfficeの対抗馬でないからだ。特に,Microsoftも最も重視する大企業市場で競合しない。Googleによると,2007年上半期における同社のソフトウエア関連ライセンスおよびサービスの収入はわずか7000万ドルで,同期間の総売上高の1%にも満たない。Microsoftの企業向け事業の売上高と比べると,この7000万ドルという金額は誤差の範囲に収まってしまう。

 しかし徐々に成長するしかないMicrosoftにとって,10年前のNetscapeがそうであったように,Googleは脅威である。そしてGoogleはNetscapeと異なり,極めて豊富な資金を持っていて,急成長しており,Microsoftの支配下にある市場へ向かっていると自覚しつつある。この脅威の高まりに対するMicrosoftの過剰反応は,こうして解釈できると思う。少なくともMicrosoftは,Googleという今の競争相手について知っている。10年前は,当時CEOだったBill Gates氏が“インターネット熱”にかかるのを待ったため,何年かを無駄にしてしまった。その際の時代遅れで行き過ぎた対応は,いまだ世界各地で独占禁止法に関するトラブルとして尾を引いている。

Microsoft offers its take on CapGemini-Google deal」(Mary Jo Foley氏)