インターネット検索大手の米Googleは,米Microsoftとの独占禁止法(独禁法)にかかわる争いをエスカレートさせた。2007年11月に終わる予定のMicrosoftの事業活動に対する監視期間を,延長するよう米国政府に申し立てていると発表したのだ。Googleは「Microsoftが今も独占的立場を乱用し,独禁法違反判決にともなう和解条件を順守できていない」と述べる。さらに「Microsoftが先ごろ発表した『Windows Vista』の『インスタント・サーチ』機能に関する仕様変更は,完全に不十分」としている(関連記事「Windows Vistaの検索機能の仕様変更は不十分」 -- GoogleはMicrosoftの対応に満足していないMSとGoogleの「デスクトップ検索」を巡る争い)。

 Googleは,法廷助言者の立場で米連邦地方裁判所の判事Colleen Kollar-Kotelly氏に申立書を提出した。そのなかで「Microsoftがデスクトップ検索ソフトウエアをWindows Vistaに組み込んだ行為は,(Microsoftの独禁法違反に関する)最終判決違反である。Windows Vistaでデスクトップ検索ソフトウエアの紛れもない公平な選択を可能とし,競争を実現させるには,さらなる対策が必要と思われる」と書いた。

 この申立書は,提出のタイミングが重要だ。申立書が届いたのは,Microsoftと米司法省(DOJ),複数州の関係者が和解条件の順守状況に関する定例進捗会議で顔を合わせるちょうど前日である。通常この定例会議はつつがなく行われ,大抵「Microsoftが和解条件に従っている」と確認されるだけで済んできた。

 現在の争点は,Googleの要求に対してMicrosoftが精彩を欠いた対応をしているところにある。Googleは「Windows Vistaへのインスタント・サーチ組み込みにより,当社のデスクトップ検索ソフトウエア『Google Desktop Search』の速度が遅くなった」と主張した。MicrosoftはGoogle Desktop Searchとサードパーティ製デスクトップ検索ソフトウエアに若干の譲歩をしたが,インスタント・サーチを無効化する手段の提供は拒否した。「ユーザーがWindows Vistaのいたるところにある特別目立つショートカットとメニューから検索を実行すると,今後もMicrosoftは自社製デスクトップ検索ソフトウエアの検索結果を表示し続けるだろう。そのため,ユーザーが自分の選んだデスクトップ検索ソフトウエアで検索結果を得ようとしても,最初にMicrosoft製ソフトウエアの結果が表示されるので,数秒余計に手間がかかる」(Googleの申立書)

 一方Microsoftは「当社がWindows Vistaに施そうとしている仕様変更を,米国政府は支持している。Googleの要求に応えられるよう“全力を尽くした”」と述べた。ただし,今回のようにライバルの要求を一部でも飲むことは問題である。というのも,必ず要求が増えるからだ。Microsoftは,Googleの要求にこれほど素早く譲歩することなく,抵抗していればよかった。譲歩した結果,議論は「Microsoftが,Googleによる最初の訴えからさらにどれだけ譲歩できるか」に変わった。そのうえMicrosoftにとっては,GoogleがMicrosoftの事業活動監視を11月以降も続けるよう法廷を納得させる可能性があることも問題だ。

米連邦地裁の判事は,Microsoftに関するGoogleの申し立てを無視

もっとも,Googleによる今回の申請は大騒ぎになったものの,Microsoftの独禁法違反判決にともなう和解条件の順守状況を監視している米地方裁判所の判事は,Googleの訴えを無視することに決めた。米連邦地裁判事のColleen Kollar-Kotelly氏は6月26日(米国時間),「米司法省(DOJ)と複数の州が5年前に共同でMicrosoftを告発したのは,消費者の代弁が目的であり,Googleのためではない」と述べた。さらにKollar-Kotelly氏の発言から,MicrosoftがGoogleの懸念解消を目指して実施した対策は,DOJと関係各州から評価されていると分かる。

 Kollar-Kotelly氏はMicrosoftの順守状況に関する定例進捗会議で6月26日,「Googleはこの(独禁法違反)裁判の当事者でない。私が担当している限り,(DOJと関係州が)消費者の代役を果たす」とした。Kollar-Kotelly氏は6月26日の定例会議で,「Googleの訴えを仲裁するつもりはない」と表明した。

 Googleは「Kollar-Kotelly氏の判断は驚くにあたらない」とし,「Microsoftが同意した仕様変更で,少なくとも消費者の選択肢は増える」と指摘した。ただしMicrosoftは,「現在のインスタント・サーチに和解条件違反はない」としている。ところが「協調の精神から」Googleに譲歩したという。