米Microsoftは4月15日(米国時間),クロスプラットフォームのWebブラウザ向けプラグイン「Silverlight」(旧名称は「Windows Presentation Foundation Everywhere(WPF/E)」)を発表した。同プラグインによって,WebデザイナはWebサイト上で高品位(HD)ビデオやアニメーションを提供可能となる(関連記事:Microsoft,Flash対抗のメディア再生技術「Silverlight」を発表)。Silverlightは,米Adobe Systemsの「Flash」と直接競合するほか,米Appleの「QuickTime」とも多少ぶつかる。もっとも,MicrosoftとAdobeの衝突は今に始まったことではない。Silverlightのリリースによって,ついに戦いの火蓋が切り落とされたのだ。

 AdobeのFlashは10年ほど前から利用されており,技術的な問題はあるものの,アニメーション・コンテンツのオンライン配信手段におけるデファクト・スタンダードとなった(Flashとほぼ同じく,AdobeのPDFもオンライン文書配信時のデファクト・スタンダードだ)。Flashで低画質の小さな動画を配信できるようになったのは,つい数年前のことだ。Flashフォーマットの成功例は,オンライン界の巨人である米Googleが先ごろ買収した大人気サイトYouTubeなどで見ることができる。

 Silverlightは,より高い画質のビデオと,より優れた再生制御機能を用意し,Flashに欠けている様々な要素を提供しようとしている。Microsoftによると,Silverlightは720p(1280×720ピクセルのプログレッシブ・スキャン)までの動画に対応可能という。この解像度は,Flashで再生可能な動画の画質をはるかに上回る。そのうえSilverlightはFlashと異なり,導入するにあたって高価なバックエンド・サーバーを全く必要としない。さらに驚いたことに,Microsoft製品としては珍しく主要Webブラウザすべてに対応しており,「Internet Explorer(IE)」と「Firefox」だけでなく,Macintosh上でしか動かないAppleの「Safari」でも使える。

 Microsoftは,「Silverlightは画質向上のためにベクトル・グラフィックスを使用し,テキスト,グラフィックス,ビデオ,テキストおよびグラフィックスを重ねたビデオの表示に利用できる」と述べる。ApacheやPHP,JavaScript,XHTMLといった既存のWeb技術とも組み合わせて使える。Microsoftは,Webデザイナ向けツール製品系列「Expression」ブランドで,Silverlightコンテンツの作成/展開用ツールを開発中だ。ただし,これらツールはWindows専用となる(関連記事:マイクロソフトのデザイナー向け製品群「Expression」とは)。

 Adobeは「コンテンツ制作者はMicrosoftを信頼できない」とする。AdobeのCEOであるBruce Chizen氏は「Microsoftがクロスプラットフォーム製品の継続提供という姿勢を見せたことなど,これまで一度もなかった」と語り,かつてMicrosoftがMacintosh版「Windows Media Player」とIEの開発をやめたのと同様,最終的にはSilverlightのMacintosh向けバージョンの開発を中止する可能性をにおわせた。最近Adobeは,デスクトップ向け新型プレーヤ「Adobe Media Player」を発表したが,これは偶然でない(関連記事:Apolloベースの「Adobe Media Player」をアドビが国内初披露)。Adobe Media Playerは2007年後半にリリースされる予定で,クロスプラットフォーム対応となる。

 ある面では協業関係にあるものの,AdobeとMicrosoftが同じ市場で競う機会が増えてきた。Adobeは2006年,独占禁止規制当局に対して「MicrosoftのXML Paper Specification(XPS)フォーマットは当社のPDF技術と極めて似ているため,『Windows Vista』および『Office 2007』へのバンドルは不公平」と訴えた(関連記事:EUによる「Windows Vista」への苦情の背後に米Adobeと米Symantec)。さらにMicrosoftが新たに提供するグラフィクス描画ソフトウエア「Expression Design」は,真っ向からAdobeの「Photoshop」と争う。MicrosoftはSilverlightを携え,再びAdobeの主要市場に後から乗り込む。今回はクロスプラットフォーム製品であり,Adobeの堅牢な守りを破れるメリットもいくつか備えている。目の離せない戦いになるだろう。