4月10日,事業継続の発表をしたアイピーモバイル(関連記事)。だが,サービス開始に向けた具体的な方策や,新経営体制,サービス開始時期などは未定のまま(関連記事)。森トラストによるアイピーモバイルへの出資も増資ではなく,これまでの筆頭株主であるマルチメディア総合研究所の全株式を森トラストに譲渡する形を取る。森トラストの名称が出てきたのは非常に唐突で,アイピーモバイルのリリースも,森トラストとの共同発表ではなく単独での発表。そこで,急きょアイピーモバイルへの出資について,森トラスト投資事業本部の相馬剣之介副主事に話を聞いた。

基本合意の内容は。

 マルチメディア総合研究所が持っていたアイピーモバイルの株式を全株取得する。持ち株比率は69.23%。取得金額は公表していない。株券を受理する時期などの手続きはこれからとなる。本日4月10日,森トラストの取締役会で決定をした。

会見ではアイピーモバイルの竹内一斉執行役員が関東圏で600億円必要との金額を出していたが,森トラストがこれだけの出資をする意図はあるのか。

 我々が全部出資するという話では必ずしもない。既存の株主との相談になる。会見では金額に幅を持たせて話をしていたと思う。どのレンジで,どの割合でというのはこれから決める。

森トラストが増資するのではなく,マルチメディア総合研究所から株式の譲渡を受ける理由は。

 増資となると,(事前に)既存株主と相談しながらやらなければならないといったこともある。マルチメディア総合研究所に代わり,森トラストが入ることで互いにマイナスになることはない。

3月中旬から交渉が始まったということだが,誰が森トラストに出資の話を持ちかけたのか。

 マルチメディア総合研究所とアイピーモバイルの双方から話があった。今回出資したのは,街づくり,不動産事業と(通信事業は)相乗効果があるとの判断からだ。そして,森トラストの社長の兄である森敬・元慶應義塾大学教授の弟弟子がアイピーモバイル技術顧問の中川正雄慶應義塾大学理工学部教授という縁もあった。無論,このことで出資を決めたわけではなく,事業性があり,それに加えて縁もあったということだ。

街づくりとの相乗効果を狙うのであれば,アイピーモバイルではなく,他の通信事業者と提携してもよかったのではないか。

 実際の事業はこれからだが,モバイルのデータ通信方式としてはTD-CDMAは有望であると我々は見ている。また,アイピーモバイルは既に認可を受けた事業者である点を評価した。

既存の株主であるインターネットイニシアティブ(IIJ)やCSKプリンシパルズなどとの関係は。

 事前には(アイピーモバイルが)既存の株主に(森トラストが出資するということを)報告していないと聞いている。アイピーモバイルが,これから説明すると思う。アイピーモバイルのリリースに「減増資」とある通り,これから既存の株主と相談しながら資本金を見直すことになる。

現在,アイピーモバイルの資本金は,資本準備金と合わせて53億7300万円(資本金は33億5000万円)だ。これがどう変わるのか。

 今後増資をしたときに,必ずしも我々の今の持ち株比率(69.23%)を維持するか,というのは別の問題だ。いろいろ出資を募って,我々の比率が下がる可能性もある。

アイピーモバイルに森トラストから役員を派遣する可能性は。

 筆頭株主なのでまったくなしということはない。これから相談していく。

いつからサービスを開始するつもりなのか。

 総務省から認可を受けて2年以内にサービスを開始しなくてはならないことは承知している。我々は筆頭株主としてアイピーモバイルはじめ,他の株主とこれから話をして,その中で具体的にお伝えできるものが出来上がった段階で,話をさせていただく。現状はまだいつ頃,どういった形でという状態にはなっていない。時期に関してはまだ分からない。ただ2年という期限を認識した上で話を進めていかなければならない。

総務省に対して基地局開設計画変更の申請はいつするのか。

 それも時期は決まっていない。

次の売り先も考慮した上での投資か。

 期限をいつまでと区切ることができる事業ではないので,何年後のEXIT(売却)を想定したような投資ではない。ただし,これからずっと持ち株比率が約70%であり続けるわけではない。筆頭株主がすぐに変わってしまうようなこともあるかもしれない。

森トラストが音頭を取って出資を募ることはあるのか。

 (通信事業を営むには)我々だけで背負っていける金額ではないので,これから話し合って決める。アイピーモバイルが今後多額の資金を必要とする中で,森トラストの信用力や資金調達能力が評価してもらえるだろう。