写真 フォン・ワイヤレスのマーティン・バルサフスキーCEO
写真 フォン・ワイヤレスのマーティン・バルサフスキーCEO
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 公衆無線LANサービス「FON」を提供している英フォン・ワイヤレスは3月29日,伊藤忠商事,エキサイトと資本提携したと発表した。フォン・ワイヤレスは両社と提携することで,日本独自の事業提携や普及促進策などを打ち出す。フォン・ワイヤレスのマーティン・バルサフスキーCEO(最高経営責任者)は,「地域ローカルの株主を置いたのは日本が初めて」とした(写真)。

 FONは,ユーザーの自宅に設置した「LaFonera」と呼ぶ専用の無線LANアクセス・ポイント(AP)を,ユーザー間で共有して利用する公衆無線LANサービス(関連記事)。日本国内では,日本法人のフォン・ジャパンがサービス提供している。提供形態は,利用者が自身のAPを無償提供し他者のAPも無償利用できる「ライナス」型,自身のAPを有償提供し他者のAPも有償利用する「ビル」型,自身ではAPを立てず他者のAPを有償利用する「エイリアン」型の3タイプ。日本では現在ライナス型のみを提供しており,今夏からエイリアン型も追加する予定だ。

メーカーや他の公衆無線LAN事業者との提携を模索

 フォン・ワイヤレスと資本提携した伊藤忠商事 宇宙・情報・マルチメディアカンパニーの瓜生裕明・情報産業ビジネス部ITプロダクトビジネス課プロジェクトマネージャーは,「FONは成功する要件を多数備えているが,日本では欧米と異なるハードルがある。総合商社のグループ力で,その解決の手助けをしたい」と提携の狙いを語った。具体的な課題としては,(1)FONネットワークの拡大,(2)対応端末の拡大,(3)ユーザーの使いやすさ向上──を挙げた。

 まずFONネットワークの拡大に対しては,インターネット接続事業者(ISP)や既存の公衆無線LAN事業者との提携を考えているという。ISPと提携することで,FONに参加するユーザーの増加を見込む。さらに,カフェや駅,空港など,ユーザーが自宅にAPを設置するだけではカバーしづらいエリアの拡充のために,既存の公衆無線LAN事業者とのローミングを検討したいとした。

 対応端末の拡大としては,ゲーム機やデジタルカメラなどパソコン以外の端末のメーカーとの提携を検討する。端末メーカーと提携することで,簡単にFONに接続できる仕組みを端末に内蔵するなどの対応をしたいという。フォン・ワイヤレスのマーティンCEOも,「ソニー,任天堂,松下など日本はデジタル・ガジェットのメーカーが多い」と期待する。

 また使いやすさ向上では,クレジットカード以外の決済手段への対応などを検討する。「日本では,コンビニでの現金決済の利用が多い」(伊藤忠商事の瓜生氏)からだ。

 一方のエキサイトは,資本提携を通じて(1)エキサイトのユーザーIDで世界中のFONに接続できるようにするサービス,(2)同社のブログを活用したFONユーザーのコミュニティ・サービス,といった新サービスの提供を予定している。また,「グーグルやスカイプなど,フォン・ワイヤレスに出資する企業とも提携して,FONを盛り上げるサービスを提供したい」(エキサイトの坂本孝治・取締役エンタテイメント事業部長)とした。

 資本提携は,具体的にはフォン・ワイヤレスが3月に実施した総額1000万ユーロ(約16億円)の第三者割当増資の一部を伊藤忠商事とエキサイトが引き受ける形で実現した。両社以外には,米グーグル,米セコイア・キャピタル,スイスのインデックス・ベンチャーズ,デジタルガレージ子会社のDGインキュベーションが第三者割当増資を引き受けている。

 伊藤忠商事とエキサイトの出資額は明らかにしなかったが,「かなりの額ではある」(フォン・ワイヤレスのバルサフスキーCEO)。伊藤忠商事,エキサイトともに,投資回収で収益を上げるのではなく,FONと提携したことによる新事業で収益を上げたいとした。

[伊藤忠商事のプレスリリース]