日立製作所 産業・流通システム事業部共通業務支援G グループリーダーの水野義信シルバーコンサルタント
日立製作所 産業・流通システム事業部共通業務支援G グループリーダーの水野義信シルバーコンサルタント
[画像のクリックで拡大表示]

 日立製作所は2005年夏から情報通信グループの1事業部でフリーアドレスを導入し、約1400人で利用中である。他事業部や本社部門への展開も検討している段階だが、情報通信グループ全体で導入すればおよそ1万5000人の国内最大規模の事例となる。産業・流通システム事業部共通業務支援G グループリーダーの水野義信シルバーコンサルタントに、フリーアドレス導入の狙いと効果について聞いた。

(聞き手は市嶋 洋平=日経コンピュータ)

---フリーアドレスはどの程度の規模で実施しているのか。

 去年の8月から導入を始めて、いまは、東京都品川区大森にある情報通信グループの産業・流通システム事業部の約1400人で実施している。社員は会社に出社したらカギのかかる個人ロッカーからノート・パソコンを出して、自分の部や課でおおよそ決めてあるエリアのデスクで仕事をする。帰宅時や外出時にはノート・パソコンや書類をすべて個人ロッカーにしまう。

 フリーアドレスの導入にあわせて電話も変えた。社員がどこにいても連絡できるように、IP電話を導入。パソコン上のソフトフォンを起動して、USB接続のヘッドセットで通話が可能なシステムにした。

---効果は出ているのか。

 従来は270坪の1フロアに160人が働いていた。フリーアドレスにした結果、3分の2の180坪で済むようになった。空いたスペースは会議室やオープンな打ち合わせ場所にした。これによって、社員同士のコミュニケーションが進んだ。

 一緒に仕事をする人の机の場所が決まっていないせいか、仕事の進め方も変わった。例えば、会議の際に社員がノート・パソコンを持ち寄り、議論しながらその場で資料を修正して、参加者の承認を採るケースが増えている。これで、承認が必要な仕事が格段に速くなった。

 ソフトフォンも仕事の効率アップに寄与しているようだ。従来は部課の代表番号にかけていた電話が、個々人の内線にかけられるようになった。社員同士が直接呼び出すことになり、電話の取り次ぎがなくなった。

 こうした取り組みの積み重ねで、「顧客とのやり取りに割ける時間が30%増えた」、「顧客へ見積もりや、部内の報告・提案書類の作成の速度が50%速くなった」といったアンケート結果も出ている。

---シン・クライアントの導入も進めている。両者の関係は?

 2004年度に2000台、2005年度に8000台、合計で1万台のハード・ディスクなしのパソコンを導入した。万が一社員が外出先でノート・パソコンを紛失しても、情報が取り出されることがないことを目指している。ノート型以外にもデスクトップ型もあり、これらを「セキュリティPC」と呼んでいる。データセンター側でほとんどの処理を行うシン・クライアントのシステムで、セキュリティPCには処理結果の画面データのみが送られてくる。

 セキュリティPCは、東京都内の日立の他のオフィス、屋外や家庭でも有線/無線のネットワークさえあればどこでも利用できる。現在、日立全社のネットワーク環境を整えているところだ。

 こうしたシン・クライアントによるオフィス環境の変化が、フリーアドレス導入を容易にしている。

 セキュリティPCは、2006年と2007年にもそれぞれ8000台を導入し、最終的に全社で3万台規模までもっていきたい。このインフラを利用して、フリーアドレスを展開していく。情報通信グループではそれぞれの事業部単位で展開しようとしているところで、日立の本社部門も検討をしている段階だ。