図1 アプリケーションの動作に合わせた帯域や通信経路の自動変更を望むユーザーが半数に上る
図1 アプリケーションの動作に合わせた帯域や通信経路の自動変更を望むユーザーが半数に上る
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図2 ユーザーは使う場所や使用状況に柔軟に対応できるネットワークを望んでいる
図2 ユーザーは使う場所や使用状況に柔軟に対応できるネットワークを望んでいる
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表 アンケートの概要
表 アンケートの概要
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 ユーザー企業のネットワークに対する意識が今,大きく変わり始めている。帯域などのスペックを求めるのではなく,ネットワークに対し業務に直結した振る舞いを求めているのだ。従来のネットワークを定義していた“レイヤー”といった考え方はもはや崩れ,ユーザーは「アプリケーション指向」に大きく舵を切り始めている。

 こうした動きを端的に表すのが図1に示したアンケート結果である(注1)。49%もの企業が,「アプリケーションの動作に合わせて帯域や通信経路を自動変更する通信サービス」を望んでいたのだ。もう「100Mビット/秒」といったスペックを前提とするだけのサービスは意味をなさない。アプリケーションを使うために最適なネットワークのスペックは,アプリケーション側が主導権を握って決めるようになっていくのだ。

 ここ数年で,LANでもWANでもIPが共通基盤になった。この結果,企業ユーザーは回線やネットワーク機器ではなく,その上で提供される業務に直結したアプリケーションに意識を集中できるようになる。アンケートの自由記入欄にあった次の書き込みは,まさにその動きを物語っていた。「ネットワークSEは,アプリケーションの領域の知識を身に付ける必要がある。今後,ネットワークをサービスとして提供していくことができなくなり,電気や水道と同じになる。ネットワークSEや通信事業者の地位もどんどん低くなる。パソコンのOSやデータベースの知識,ERP(業務統合パッケージ)などのアプリケーションの知識も必要になる」−−。一昔前ならシステム・インテグレータなど事業者側が発した言葉だが,いまやユーザー企業自らがこうした声を挙げ始めたのだ。

 ユーザー企業が通信事業者に求めるサービス像も変わってきている(図2)。半数近くの企業が「使う場所を限定しないモバイルを考慮したサービス」,「ネットワークの使用状況などに応じた自動設定サービス」を挙げている。前者は共通基盤であるIP網をLAN/WANだけでなくモバイルにも広げようとする動き。後者は,ネットワークに対して“電気,ガス”のような使い勝手を望んでいる姿が浮かび上がる。

 約66万社もの中小企業を顧客として抱える大塚商会の大塚裕司社長は,「一般的な企業にとってネットワークは電気やガスと同じ。“挿せば使える”,“ひねるだけで大丈夫”なのが電気やガス。顧客はそんなイメージをネットワークに求めている」と語りかける。こうした発想や視点に立った変化が,まさに今起こっているのだ。

 こうした企業ネットワークを取り巻く大きなうねりは,通信事業者のあり方までをも変え始めている。2006年に入り,通信事業者が堰(せき)を切ったようにアプリケーションを意識したサービスや提携を発表しているのはその表れだ。1月から4月の間だけでも,アッカ・ネットワークスや日本テレコム,NTTPCコミュニケーションズなどがシステム・インテグレータやソフトウエア・メーカーとの提携などにより,新サービスの提供に踏み切った。従来,回線サービスの提供に専念していた通信事業者が自らその壁を崩し,新たな世界に踏み込んでいる。

 各社は新サービスのキーワードとして挙げるのが,“ワン・ストップ”,“一気通貫”というもの。「ネットワークからアプリケーションまで,すべてを一括で提供する」という意気込みを表している。情報システムのコンサルティングからシステムの設計・構築,アプリケーションの開発,ネットワークの保守・運用にいたるまで,まさに“一気通貫”で提供するサービス「Master'sONE」を4月から投入したNTTPCコミュニケーションズの齋藤壽勝VPNソリューション推進室長は,次のように言い切る。「ユーザーにとって最適なアプリケーションを選択できるようにすることが狙い。その延長線上にネットワークがある」−−。

 もはやアプリケーションやネットワーク,LAN/WANやモバイルといった壁を崩さなければユーザーの要望に応えられない。ネットワーク単体でビジネスをする時代はとうに過ぎ去ったのだ。ユーザーの変化に合わせて,通信事業者も変わり始めている。

 (注1)日経コミュニケーションでは,ユーザーの企業ネットワークに対する意識を確認するため,3月17日から27日にかけて読者モニター291社に対してアンケートを実施。149社から回答を得た(アンケートの詳細は表を参照)。なお,149社の事業内容や企業規模はそれぞれ異なり,大企業や中小企業に偏った結果ではない。

(大谷 晃司=日経コミュニケーション

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