写真 Mini Card向けのサンプルを手にするクレイグ・バラット社長兼最高経営責任者
写真 Mini Card向けのサンプルを手にするクレイグ・バラット社長兼最高経営責任者
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 アセロス・コミュニケーションズは2月16日,無線LANの次世代規格である「IEEE 802.11n」のドラフトに準拠した無線LANチップセット「AR5008」を発表した(写真)。同時に日本国内でサンプル出荷を始めた。AR5008は,無線機能を集積した「AR2133(2.4GHz)」と「AR5133(2.4/5GHz)」,ベースバンドおよびMAC機能を集積した「AR5416(PCI)」と「AR5418(PCI Express)」で構成する。AR2133は三つの無線機能を1チップに集積することで,多重したデータ・ストリームのスループットの安定化を図る。パソコンのデータ通信だけではなく,家庭でのハイビジョン動画(HDTV)の伝送用途など,家電市場も狙う。

 IEEE 802.11nは,2.4GHz帯と5GHz帯の両方の周波数帯に対応し,MIMO(multiple input multiple output)技術を採用した高速化規格。既存のIEEE 802.11a/b/gとも相互運用できる。1チャネルの帯域幅は20MHzと40MHzの両方が規定されている。規格上のリンク速度は最大600Mビット/秒にもなるが,4本のデータ・ストリームを使うのが前提。実際の製品化にはコストがかかるなどの問題があり,今回製品化されたのは,2本のデータ・ストリームを使い,最大300Mビット/秒のリンク速度を実現するチップとなる。

 ただし,最大300Mビット/秒というリンク速度は帯域幅40MHzの場合。日本では2.4GHz帯,5GHz帯のいずれの周波数帯でも,まとめて40MHzもの帯域幅を使うことができない。そのため,実際は20MHzの幅となり,リンク速度は半分の150Mビット/秒程度となる。実効スループットは「MACが改善されており,IEEE 802.11gよりも効率が良い」(クレイグ・バラット社長兼最高経営責任者)とし,リンク速度の60%程度の実効スループットが得られるとしている。

 IEEE 802.11nは,2006年1月にドラフトが承認されたばかり。今後,各社の調整などを経て,2007年4月ころには正式な規格となる予定。バラットCEOは,ドラフト段階で製品化したことについて,「802.11nのドラフトは全会一致で採択され,最終的な変更は少ないと思われる」とコメント。ドラフト段階で製品化され普及したIEEE 802.11gの例を挙げ,IEEE 802.11nも同様に普及するとした。これらのチップセットを組み込んだ製品は第2四半期に登場予定で,「当初はPCカードや無線LANアクセス・ポイントになるだろう」(日本法人の大澤智喜代表取締役)としている。

(大谷 晃司=日経コミュニケーション