電力線通信の実用化をめぐって紛糾してきた「高速電力線搬送通信に関する研究会」が10月4日,ついに決着した。2001年から2002年にかけて開催した前回の研究会では実用化を見送っており,4年もの歳月をかけて結論を出したことになる。

 高速電力線通信は,2M~30MHzの周波数帯を利用する。この周波数帯はアマチュア無線や短波放送,電波天文など他の無線が利用しているため,電力線通信がこれらの無線システムへ与える影響が懸念されてきた。実用化の許容値をめぐって研究会は紛糾。2005年1月の研究会再開から実に10カ月もの間,折り合いがつかずにここまできた。

 前回の会合で,座長を務める東北大学電気通信研究所の杉浦行教授ら4人の有識者で構成する作業班から報告書素案が提示された。報告書素案では,電力線通信用モデムの許容値を,漏えい電磁波の原因となる「コモンモード電流値」と,モデムの型式認定を行う際の測定系の電力線の品質を表す指標「平衡度」で規定。コモンモード電流値には「CISPR」で規定するパソコンの通信ポートの値と等価の30dBuAを,平衡度は全家屋の99%が満たす値を提案していた(記事参照)。

 今回の会合では,推進派と反対派の双方からコモンモード電流値と平衡度の値についての意見が述べられた。推進派は,コモンモード電流値には同意するものの平衡度99%は厳しすぎると主張。一方,反対派は平衡度の値には賛同するが,コモンモード電流値には同意できないと反論した。また反対派の中でも電波天文を担う国立天文台は,いずれにせよ容認できないとした。

 2時間半を超える議論の末,議論は事実上打ち切りとなった。杉浦座長は「10回の会合で双方とも言いたいことは言い尽くしたはず。(推進派も反対派も互いに)相手の言い分を理解できないことに変わりなかった。この先議論を続けても,握手して研究会を終えることはないだろう」と結論。報告書素案の許容値を報告書案としてパブリック・コメントにかけることを決定した。

 重ねて杉浦座長は,「今回の許容値が反対派にとっては我慢の限界だろう。メーカーに難しい注文を付けているのも分かっているが,これ以外に解はない。許容値は推進派と反対派双方のバランスの上にある難しい問題だ」と理解を求めた。

 推進派各社からは,「国際的にも平衡度99%は厳しすぎる。海外製品の締め出しと受け止められる可能性もあるのではないか」,「国際基準が正式に策定された際には国内規制も見直すべき」といった声が相次いだ。これに対して杉浦座長は「研究会の開始当初から,問題があるのかどうか分からない既存製品をそのまま通そうとは思っていなかった」と発言。改めてメーカー各社に早急な技術開発を要請した。

 メーカー各社がどれだけの速度や品質を発揮できるモデムを開発できるかは,「やってみないと分からない」(メーカー関係者)というのが実情。問題は,モデムの価格と市場に製品を投入するまでにかかる時間で,ハードルは決して低くない。それでも「研究会がいつまでたっても決着せず,延々と実用化が先延ばしになるよりはまし」(メーカー関係者)という本音も漏れ聞こえてきた。

 報告書案は,10月半ばから30日間のパブリック・コメントにかけられる。集まった意見は11月後半にも開催される次回研究会で報告され,研究会は幕を閉じることになる。その後,早ければ年内にも総務省情報通信審議会で技術基準を策定し,電波監理審議会などを経て正式に実用化が認められる見込みである。

(山根 小雪=日経コミュニケーション