首都圏を舞台にした東京電力/KDDIの提携交渉(写真1,写真2)の一方で,西日本エリアの通信事業者でも水面下で大きな地殻変動が始まっている。その主役となっているのも光ファイバである。
関西電力子会社のケイ・オプティコムをまとめ役に,光ファイバを持つ西日本エリアの電力系通信事業者の大連合が結成されようとしているのだ。西日本の電力系通信事業者6社はこれまでケイ・オプティコムを中心に,FTTH(fiber to the home)サービスの提供で協力関係を築いてきた。だがここへきて6社がさらなる結束強化に動く可能性が急速に高まっている。
パワードコム消滅で電力系がバラバラに
皮肉にもその動きを後押しする形になったのが,電力系通信事業者である東電の行動だ。
7月末に表面化した東電とKDDIの提携交渉は全国の電力会社や電力系通信事業者に少なからぬショックを与えた。「東電子会社のパワードコムをKDDIに吸収合併させる」という新聞報道が現実のものになると,パワードコムが消滅するからだ。
パワードコムは全国の電力系通信事業者の中核であり,各社の地域通信網を中継する全国ネットワークを持つ。「パワードコムがなくなると,電力系通信事業者は間違いなく空中分解する」との悲鳴が複数の電力関係者から上がってくる。
さらに分裂を煽るのが,「詳しい説明もなく独断でKDDIと提携交渉を開始した」(電力業界に詳しい関係者)と言われる東電への強烈な反発心。これが呼び水となり,西日本の電力系通信事業者は規模とエリアで,さらなる存在感を出す必要に迫られた。
西の電力系通信事業者は,ケイ・オプティコムや中部電力の光ネット・カンパニー,九州通信ネットワーク(QTNet),中国地方のエネルギア・コミュニケーションズ,四国のSTNet,沖縄通信ネットワークの6社とも,FTTHサービスを展開している。東電以外の電力系通信事業者は本格的なFTTHを提供していない東日本エリアに比べて,積極的な姿勢を打ち出している。
西日本6社でFTTH連合が結成された場合,電力系通信事業者のFTTHは文字通り東西で真っ二つに分裂するという異常事態に突入する。
新たな光ファイバを巡る戦いの幕開けに
さらに西日本から目が離せないのは,ソフトバンク・グループの動き。ソフトバンクが西の電力系FTTH連合に接触していることが,本誌の取材で浮かび上がってきたのだ。
事実,ソフトバンクとケイ・オプティコムはIP電話網の相互接続を早くから実現するなど,良好な関係を築いている。「交渉しているかどうかを含めてノーコメント」(ソフトバンクBBの宮川潤一常務取締役)としているが,ソフトバンクは2004年後半から,「FTTHを卸してもらえないか」という交渉をケイ・オプティコムに持ち掛けていたようだ。
その一方,スピードネットの後処理を負わされた一件などから,東電はソフトバンクと組むことに抵抗感を持っている。その東電がKDDIに近付くなら,西日本でFTTHを展開する電力系通信事業者と早めに手を組むのが得策,とソフトバンクが考えるのは当然の流れだ。
KDDIの小野寺正社長は,「まず東京電力ときっちり話しをすることが先決。その後,ほかの電力会社と話をしていく可能性はある」と,東電以外の電力会社や電力系通信事業者のFTTHへも興味を示す。だが西日本でソフトバンクに先手を打たれるとKDDIの電力FTTHは首都圏だけに封じ込まれかねない。そうなると,首都圏は東電+KDDI,西日本は電力FTTH連合+ソフトバンク,全国提供が可能な東西NTT——と,光ファイバを巡る「三者鼎立」の勢力図が形成される可能性もある。
もちろん現時点では東電とKDDIの提携が合意前であり,ソフトバンクと西日本の電力系通信事業者との話し合いがうまくいくかどうかも不透明。あくまでも一つのシナリオに過ぎない。しかし東電/KDDIの提携が無事に実現した場合,それはNTTやソフトバンクも巻き込み,新たな光ファイバを巡る戦いの幕開けになる。
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