「はやぶさ」が挑んだ人類初の往復の宇宙飛行、その7年間の歩み
独立行政法人宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループプログラムディレクタ 宇宙科学研究所宇宙航行システム研究系教授 川口 淳一郎 氏
独立行政法人宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループプログラムディレクタ 宇宙科学研究所宇宙航行システム研究系教授 川口 淳一郎 氏

【講演概要】2003年に打ち上げられた「はやぶさ」は、小惑星イトカワへの着陸を果たし、試料採取を試みた後、2010年6月13日、7年間60億kmの往復の宇宙飛行を終え地球に帰還。試料カプセルを無事着陸させ、回収することに成功しました。これは、地球引力圏外の天体への人類初の往復の宇宙飛行でした。講演では、その科学と技術の意義とともに、飛行中の苦難とその対応について紹介し、得られた教訓、またそれらから観た昨今の社会状況への対応についてお話したいと思います。

■ 9月16日(金)10:30-11:15 A会場
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担当記者による紹介記事

 2010年6月13日、約7年間、60億kmにおよぶ飛行を終え、地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」。地球引力外の天体を目指した人類初の往復宇宙飛行を成功に導くためのプロジェクトメンバーの苦労はどれほどのものだったのだろうか──。

 前例のない困難なプロジェクトをどうやって成功に導けばよいのか。これは、ソフト開発やシステム開発を手掛けるIT分野の開発者やプロジェクトマネジャーなら、誰もが感じたことのある悩みだろう。

 そもそも、プロジェクトマネジメントとはどのようなものか。筆者が担当する雑誌『日経SYSTEMS』の過去の解説記事からプロジェクトの定義を見返してみると、「プロジェクトとは、目的・目標が定められた、期限のある、1回限りの活動」とある。プロジェクトマネジメントは、そうした特徴を持つプロジェクトを成功に導くために、計画と現状を見比べて問題を見つけながら、手を打っていくことである。

 プロジェクトを進めていると、進捗の遅れや品質の不備、工数の超過など、さまざまな問題に直面する。進め方の方法論や過去の経験が助けにはなるだろうが、1回限りという特徴を持つプロジェクトであるから、たとえ初めて直面する困難であっても、プロジェクトメンバーの創意と工夫によって乗り越えていかなければならない。

 冒頭に挙げたはやぶさのプロジェクトはまさに、過去に前例のないことずくめである。探査機が革新的な新方式のイオンエンジン(イオンの持つ電荷によって加速するエンジン)を採用したのはその一つ。また、地球引力外の小惑星の表面上に着陸し、試料を採取して地球に持ち帰ってきたのも世界で初めてである。

 プロジェクトを進めていく上で、多くのトラブルにも直面した。姿勢制御装置の故障や燃料漏れ、一時的な通信の途絶などだ。それらのトラブルによって、帰還の延期も余儀なくされている。

 講演では、はやぶさのプロジェクトマネジャーを努めた川口淳一郎氏が、その幾多の苦難を乗り越えて達成した人類初の小惑星往復飛行プロジェクトについて、その科学と技術の意義、飛行中の苦難やその対応について紹介する。

 最先端の技術を使って新しいものを作り上げていくこと、直面する多くの問題を乗り越えプロジェクトを成功に導くこと。これらはITと宇宙開発、分野は違っていても共通するものだ。壮大なプロジェクトを成し遂げた川口氏の講演は、IT分野の開発者にとっても、大いに役立つはずだ。

(森重 和春=日経SYSTEMS

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