「第94話 禁煙日記」を書いたのは,2002年7月。もう6年半も前のことである。毎日2箱たばこを吸っていたのが嘘(うそ)のようで,吸いたいとも思わないし,止めた直後のようにたばこを吸っている人の横に居ても咳き込んだりもしなくなった。現在は,全くたばこが気にならない,本当にたばこからフリーな状態だ。

 たばこは考えをまとめるため,思考に句読点を打つために使っていたのだが,筆者にはもう一つ,悪しき習慣がある。それがナイトキャップ,つまり寝酒だ。それは就職したての二十代前半の頃,残業続きの頭の興奮を静めるため,ウィスキーの水割りを一杯飲んでから眠るようになったのがきっかけだ。

 夜遅く家に帰り,食事をしても,風呂に入っても,作りかけのプログラムや解決しないバグが頭から離れなかったのだ。寝ている間にバグが解けて気持ちの良い朝を迎えたこともあったが,寝つけない夜の方が多かった。それで,水割りを一杯飲んでから眠るようになった。

 しかし,飲み続けているとアルコールに耐性がつき,たくさん飲まないと眠れないようになる。耐性を少しだけリセットするには,アルコールの種類を変えることだ。若い頃はウィスキー,スコッチ,バーボン,ジン,ビール,白ワイン,赤ワイン,そしておっさんになってからは日本酒,焼酎,都合のよいことに焼酎にはバリエーションが多い。麦焼酎は飲みやすいから,そば焼酎,そして最近は芋焼酎のお湯割りに落ち着いていた。種類を変えるとしばらくは少ない量で眠くなる。しかし,また慣れてきて量が増える。こんな風に書くとまるでアルコール依存症の告白のようであるが,朝から飲みたくなるとか,仕事中でも酒が欲しくなるといった症状は全くない。

 でも,いくつかの団体に所属していることもあり,飲み会はここ数年徐々に増えてきた。また,昨年は思い出してみると,たいした風邪もひかなかったので,一晩たりとも寝酒を欠かしたことがなかった。皆勤賞である。芋焼酎のお湯割り一杯で終わるつもりが,ついつい継ぎ足して飲んでいた。眠くなるまで飲んで寝るという習慣が板に付いてしまったのだ。まして,アラウンド・フィフティになると残念なことに苦手な酒はほとんどない。

 嫌な感じはあった。最近はビールを少し飲んだだけで,酔いがジワッと溢れるような感覚があった。年末には献血することにしているので,昨年末も献血をした。言い訳をしておくと,年暮れで毎晩飲み続けた後,12月30日に献血をしたことも数値を悪くした原因の一つである。

 1月10日(土) 血液検査の結果が送られてきた。数値が悪いだろうなと思っているので,なおさら,何でもないようにぞんざいに葉書を開く。予想通り,ガンマGTPは100を超えていた。ああ,やっぱりかという感想だった。

 この日は飲み会があったが,ビールしか飲まなかった。焼酎は我慢したが,それでも,結構しつこくビールを飲んでいた。根が意地汚いのである。

 なんとかしたいという気持ちは飲みながらもあった。酒量を制限しよう,休肝日を作ろうなどとも考えたが,一番大事なのはナイトキャップを止めること,つまり,睡眠薬代わりにアルコールを使うのを止めることだと感じた。

 大勢の飲み会では,楽しく酒を飲んで騒ぎたい。妻や成人式を経験したこうしろうと鍋を囲んで一杯やる時間はいつまでも楽しみたい。まず,飲まなくても眠れるという状態を作ることから始めようと思った。