文・高畑 和弥(日立総合計画研究所 知識情報システムグループ 副主任研究員)

 総務省は2007年3月に電子自治体の構築に関する新しい指針として新電子自治体推進指針を策定しました。これは2003年8月に総務省が策定した電子自治体推進指針(以下、旧指針)の改訂版といえます。旧指針の策定から3年以上が経過し、電子自治体構築に向けた取り組みが一定の進展を見せたことや地方自治体を取り巻く環境が変化したことなどを踏まえ、内容を見直したものです。

 新電子自治体推進指針では「2010年度までに利便・効率・活力を実感できる電子自治体を実現すること」を目標とし、そのために重点的に取り組むべき事項として、(1)行政サービスの高度化、(2)行政の簡素化・効率化、(3)地域の課題解決の三つを掲げています。新電子自治体推進指針と旧指針の主な相違点としては、電子自治体の推進にあたって、住民視点と費用対効果の視点が重視されていることが挙げられます。

 住民視点については、旧指針でも「利用者の視点に立った電子自治体の構築」が基本的な方向として掲げられていました。しかし、言及されていた重要課題を見てみると、行政手続きをオンライン化し、いつでも、どこでも、誰でもアクセスできる環境を構築することや総合行政ネットワーク(LGWAN)、住民基本台帳ネットワークシステムなどの基盤整備を進めることが中心であり、とにかくまずオンライン化することが目標とされている感は否めませんでした。

 これに対して、新電子自治体推進指針では、オンライン化自体を目標とするのではなく、利便性向上を住民にいかに実感してもらい、サービスの利用を促すかという点をより重視しています。具体的には、2006年1月に策定されたIT新改革戦略の目標である「2010年度までにオンライン利用率50%以上」の達成、行政手続きの完全オンライン化(添付書類、支払い、交付など手続きのすべてのプロセスをオンライン化すること)の実現、官民連携ワンストップサービスの実現などが重点的な取り組み事項として掲げられています。

 費用対効果の視点については、旧指針では「IT調達の適正化」に触れられている程度にとどまっていました。しかし、多くの地方自治体が厳しい財政状況に直面する中で、IT化についても費用対効果の向上に対する要求が高まっており、新電子自治体推進指針はこの動きを反映させた内容となっています。具体的に取り組むべきこととしては、「IT調達の効率化・透明化の実現」に加えて、「エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の手法を取り入れた業務改革の実施」「地域情報プラットフォームを活用した業務の標準化・データ連携」「PDCAサイクルの確立によるITガバナンスの強化」などが挙げられています。

 そのほか、各取り組み項目にベンチマーク(施策の進捗度を把握する指標)を設定したことも旧指針との相違点であり、これにより「指針」として一歩踏み込んだものとなりました。ベンチマークを設定することで、新電子自治体推進指針が示す施策の方向性が各自治体の施策に浸透しやすくなるとともに、各自治体の取り組みについての現状把握や課題分析が容易になると期待されます。総務省では毎年度、各自治体の推進状況をフォローアップし、今後の施策にフィードバックしていく方針です。