文・坂本真理(日立総合計画研究所政策経済グループ 研究員)

 政府のIT戦略本部は、2006年1月に「IT新改革戦略」を発表しました。「IT新改革戦略」は、わが国の最初のIT戦略である「e-Japan戦略」と「e-Japan戦略II」に続く戦略で、2010年度までのIT政策の方向性を展望しています。

 政府は、2001年に発表したe-Japan戦略で「5年以内に世界最先端のIT国家になる」という目標を掲げ、その達成に向けたIT基盤の整備を進めてきました。さらに2003年にはe-Japan戦略IIを発表し、「元気・安心・感動・便利」社会を実現するための利用者視点でのITの利活用促進に重点的に取り組んできました。IT新改革戦略では、これまでの成果や課題を踏まえ、今後はITの利活用で世界を先導するとともに、少子高齢化や環境問題、安全・安心の確保などのわが国が直面するさまざまな社会的課題に対し、ITによる構造改革を推進して対応しようとしています。

IT戦略
資料:IT戦略本部より日立総研作成

 IT新改革戦略は3つの政策群で構成されています。第一の政策群は、ITによる構造改革に関するもので、「ITによる医療の構造改革」「世界に誇れる安全で安心な社会」などの7分野があります。例えば「ITによる医療の構造改革」では、2011年度までのレセプト(診療報酬明細書)完全オンライン化が目標の一つとなっています。少子高齢化に伴う医療費の急速な拡大が懸念される中で、医療保険事務のコスト削減とレセプトデータの有効活用による疾病予防を進め、医療費の適正化を図ろうという狙いです。

 第二の政策群は、ユビキタスネットワーク社会の実現に向けた基盤整備に関するもので、「ユニバーサルデザイン化されたIT社会」「世界に通用する高度IT人材の育成」などの6分野があります。

 第三の政策群は、第一と第二の政策群で達成される成果を世界に情報発信して技術・産業・観光分野における日本のプレゼンス向上と国際貢献を実現しようとするもので、「国際競争力社会における日本のプレゼンス向上」などの2分野があります。

 電子政府・電子自治体の取り組みは、第一の政策群の「世界一便利で効率的な電子行政」で取り上げられています。ここでは、オンライン申請・届出の利用促進や、効率的な情報システムの調達などを目指しています。オンライン申請・届出については利用率50%という目標が掲げられ、利用促進策として、添付書類の削減や手続きの見直しや、インセンティブの付与などを検討するとしています。情報システムの調達の改革については、外部専門家などからなる評価体制の整備などの方策が示されています。

IT新改革戦略における3つの政策群
資料:IT戦略本部より日立総研作成

 IT新改革戦略の大きな特徴の一つが、政策群のそれぞれの分野に具体的な評価指標を盛り込んでいることです。IT新改革戦略では、既に述べてきたように、電子政府・電子自治体に関し、オンライン申請・届出の利用率50%といった目標を掲げていますが、その評価指標には「申請・届出等におけるオンライン利用率」、「申請・届出等に申請者が要する時間・費用」などがあります。

 PDCAサイクルの確立という観点からも、戦略策定時に目標の達成状況を定量的に測定するための評価指標を設定しておくことは重要です。財政難の中、行政機関には効率的な業務遂行と説明責任を果たすことが求められており、地方自治体が策定するIT戦略にもこうした指標をあらかじめ設定することは重要でしょう。