東日本大震災の大津波から、なぜ子供達は自らの命を守れたのか―。今、多くの企業の危機管理担当者が、「釡石の奇跡」から学ぼうとしている。同市の防災を長年支援してきた群馬大学理工学研究院の片田教授は、社員一人ひとりが主体性を持たない限り、BCPは機能しないと断言する。

(聞き手は吉田 琢也=日経コンピュータ 編集長)

最近は防災対策に悩む自治体に加え、企業からの研修依頼が急増していると伺いました。各社の問題意識はどこにあるのですか。

片田 敏孝(かただ としたか)氏
1990年、豊橋技術科学大学大学院博士課程修了。同年、東海総合研究所 研究員。2005年、群馬大学工学部建設工学科教授。2010年、広域首都圏防災研究センター センター長。2013年から現職の群馬大学理工学研究院 環境創生部門教授(所属名称変更)。内閣府中央防災会議「災害時の避難に関する専門調査会」委員。著書に『人が死なない防災』(集英社新書)など。(写真:村田 和聡)

 確かにここ数年で、大手企業の幹部研修などでお話をする機会がぐっと増えました。各社は多様化するリスクに企業としてどう向き合うのか、という問題に直面しています。ある金融機関の参加者は、壊れるはずがないと信じていた金融の仕組みが一挙に破綻したリーマンショックを、「金融の世界の3.11だ」と表現しました。

 大手自動車メーカーの参加者は、「いくらリスク回避のためのマニュアルを準備しても、マニュアルに書かれていない例外的な事象が起こり得る」「そのような事象が実際に起こった時に、社員一人ひとりが適切に行動できなければ意味がない」という強い問題意識を持っていました。その方は過去の取り組みを振り返り、「マニュアルを厚くすれば厚くするほど、一人ひとりの対応力が弱くなった」と言います。マニュアル依存による対応力の脆弱性をいかに解決するか、ということは多くの企業に共通する課題です。