5年にわたり会長兼社長兼CEOとして米ベルリッツ コーポレーションを率いた内永ゆか子氏。この間、語学教育のコモディティー化が進展し、同社は事業戦略の転換を迫られた。そこで内永氏が打ち出したのは、企業のグローバルリーダー育成を軸にした新規事業だった。名誉会長に退いた内永氏に、事業戦略の転換とそれを支えるIT導入を巡る苦闘を振り返ってもらった。
語学教育のビジネスにおいて、今の課題は何ですか。
語学教育のビジネスモデルはここ4~5年で、一気にコモディティー化しました。Webを使うなど様々な形態のビジネスが登場したこともあり、その傾向は加速しています。
グローバル化の進展で、需要は伸びています。ただ、需要の伸び以上に価格競争が激しくなってきていますので、コモディティー化が進んだのです。トレーニングの価値で差異化するよりも、レッスン1回当たりの料金を競うといったふうにです。
特に企業顧客の場合、全社員に英語を学ばせたいなど最近の案件にはボリュームがありますから、単価引き下げの要望が強まっています。130年の歴史を持ち世界中でランゲージセンターを運営するベルリッツは、教師陣を多数抱えオーバーヘッドが大きいので、価格勝負だと厳しいのです。
グローバルリーダー育成にニーズ
コモディティー化に対してどのような対策を打ったのですか。
私がベルリッツに来たのはコモディティー化が押し寄せようとする頃でした。そこで顧客は何をしたくて外国語を習うのかを考えました。グローバルで成功したいから、買収した企業をうまく経営したいからでしょう。それなら言葉だけでは不十分。TOEICで900点を取ることとコミュニケーションができることは別ものです。グローバルでリーダーシップを取るためのコミュニケーションスキルを持たなければなりません。
そこでベルリッツの事業戦略を、単なる語学教育から、グローバルリーダーを育てる教育に変えることにしました。
具体的には、どのようなことに取り組んだのですか。
まずグローバルリーダーのスキルマップを作りました。必要なスキルを突き詰めると、実はすごく難しい。リーダーシップはローカルでも必要ですが、グローバルリーダーシップの場合、その対象がダイバーシティーなのです。
要するに、違う言葉を話し、違うカルチャーを持つ、違う人たちをどうやって一つの方向に引っ張っていくかということです。単なる英語力や異文化対応力だけの問題ではありません。あうんの呼吸で「君、分かるよね」と言ってまとめる日本の親分のリーダーシップとも違うわけです。
ダイバーシティーの中でリーダーシップを取るために大事なのは、まず論理的思考を身に付けることです。論理というのは何物にも勝るコミュニケーションのツールです。そしてビジョン設定などに必要な抽象化能力も大切です。