スキルの高いIT技術者を数多く抱え、世界中のソフトウエア開発を支えるインド。一方でインドのIT大手は日本市場で苦しんでいる。2013年2月に来日したカピル・シーバル通信情報技術相に、インドのIT戦略を聞いた。

(聞き手は、岡部 一詩=日経コンピュータ


インドにおけるIT産業の近況は。

インドのカピル・シーバル通信情報技術相
インドのカピル・シーバル通信情報技術相

 ご存じのようにインドはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)によって成長してきたが、今はバリューチェーンの上流へとシフトしている。ソフトウエア開発にとどまらないソリューションを世界中に提供しており、「世界のバックオフィス」という立場からフロントエンドに移行しつつある。

政府のIT育成策について教えてほしい。

 インターネットの発展でデジタル化が進み、世界中でソフトウエアソリューションが必要とされているが、インドは多くのソフトウエア技術者を抱え、世界中の都市に向けてサービスを提供している。もともと、世界的な需要に十分耐え得る供給力を持っているわけだ。政府が、民間セクターに対して多くのサポートをしなくとも、その供給量が落ちることはないと考えている。

課題はあるか。

 ソフトウエアにおけるソリューションの“質”が重要だと考えている。IT産業においては、世界の需要に応じて、数年ごとに自らを革新していく必要がある。その点、インドは今のところうまく対応できているだろう。

 インドのウィプロやインフォシスがグローバル市場で長期的な成長を続けてることを見ると、政府の支援策が必要な状況だとは思わない。インドはソフトウエアの技術分野において莫大な人材を擁しており、容易にソリューションを提供することができる。

 しかも、低コストでだ。インドはソフトウエア技術の供給源として、これからも“ホット”であり続けるだろう。

グローバルでは順調に成長を続ける一方、日本向けには伸び悩んでいる。

 確かに懸念の1つだ。ただし、それはインド側の問題というよりも、日本企業が必要とするソリューションのレベルであったり、日本からのアクセスの問題があるように思う。

 解決のための一例を挙げてみよう。我々はインドで半導体の製造を始めようとしている。現在、2つのグローバル企業と半導体工場の設立交渉を進めており、最終段階に差し掛かっている。2013年中には工場立ち上げのプロジェクトがスタートする。

 インドで半導体の製造が始まれば、ソフトウエア技術を有するインドで組み込みソフトの開発が進む。日本企業はインドでハードウエアとソフトウエアの両方にアクセスできるようになる。

日本では、BPOやオフショア開発の分野で東南アジアの注目度が高まってきている。

 競争は誰にとっても歓迎すべきことだ。恐れることはない。

 IT産業の発展のためには、フィリピンやベトナムとの競争も必要なプロセスだろう。もっとも、グローバル市場の需要を見ると、インドへのBPO需要が消えることはないだろう。

 ただし我々は、インドのIT産業がBPOだけでいいとは思っていない。バリューチェーンのさらに上流を目指しているし、既にそうなりつつある。

 次なるタタ・コンサルタンシー・サービシズやインフォシス、ウィプロが現れてきている。厳しい競争のなかでも、インドのIT産業は2桁の伸びを維持できるはずだ。