強力な販売力を武器にトイレタリー業界で他を圧倒する花王。だが、グローバル展開で出遅れ、買収により規模を拡大した化粧品事業では長く不振が続いた。最近ようやく化粧品事業を立て直し、ITをフル活用してグローバル展開と新たなイノベーションに挑む。MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)企業を自認する同社の澤田道隆社長に成長戦略などを聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ

決算期を3月から12月に変更しましたね。

1981年年3月に大阪大学工学部プロセス工学科修士課程修了、同年4月に花王石鹸(現・花王)に入社。以後一貫して同社の研究開発部門に携わる。99年3月に素材開発研究所室長。2003年7月にサニタリー研究所長。06年6月に研究開発部門副統括執行役員。07年4月にヒューマンヘルスケア研究センター長。08年6月に取締役 執行役員に就任。12年6月より現職。1955年12月生まれの57歳。(写真:陶山 勉)

 国内は販売会社を含めて3月期ですが、海外法人は12月期の決算でした。花王グループ全体として見た場合、12月期に統一したほうがよいだろうと判断しました。花王グループには12月期決算の企業が多いですし、IFRS(国際会計基準)への対応の観点からも、そうしたほうがよいですからね。

 ただ変更は大変でした。競合のライオンやP&Gはもともと12月期決算でしたので、これまではその期ずれを利用して戦っていたところがありました。年末までの結果を見て課題を分析し、残りの3カ月間にどのように修正しようかと考えていたのです。それが同時決着になったわけで、前期は前例のない厳しい戦いになりました。

戦いが厳しかったと言っても、トイレタリー業界では花王の販売力の強さが際立っています。

 いや、そう思ったことはありませんね。確かに我々は、良い商品を出していると自負しています。ただ、我々が売りたいのは商品ではなく価値なのですが、最近ではその価値を顧客に伝えきれていないと思っているのです。

 技術が商品になり、商品が価値になる。汚れを落とす技術から生まれた洗剤は、使ってもらえば、すぐにその価値を分かってもらえますよね。ところが今は、顧客が効果を感じるのに時間がかかる商品が増えました。世の中の技術レベルも上がっていますから、特定の技術でダントツの良さを感じてもらうことで差異化することも難しくなってきています。

 ただ、価値を伝えきれていないことに、私はすごく不満がある。売り上げ以前の問題です。このため後でお話ししますが、ITも価値を伝えるための武器と考えて活用したいと思っています。