企業のR&D(研究開発)を支援する情報システムは、製造などの基幹系システムとは別に開発するケースが多い。しかし、競争力のある商品を素早くかつ効率よく提供するには、R&Dと製造を一体化する必要がある。創薬などR&D向けソフトベンダーの米アクセルリス(Accelrys)は両者を一気通貫で実現する仕組みを提唱、その実現に向け製品強化やM&A(合併・買収)を積極化している。同社でCEO(最高経営責任者)兼社長を務めるマックス・カーネッキア氏にその狙いと現状を聞いた。

(聞き手は田中 淳=日経コンピュータ

R&Dから製造までを一貫して管理するマネジメント手法を提唱している。

米アクセルリス CEO兼社長 マックス・カーネッキア氏
米アクセルリス CEO兼社長 マックス・カーネッキア氏

 SILM(Scientific Innovation Lifecycle Management)と呼ぶ。正式にアナウンスしたのは2012年4月だが、その数カ月前からステークホルダー(利害関係者)や顧客に向けて説明していた。

 SILMは「アイデア創出(Ideation)」「開発(Development)」「評価(Validation)」から成るサイエンティフィックイノベーションのプロセス、さらにその成果に基づく「製造(Manufacturing)」をはじめとする商品化のプロセスを、情報を共有しつつ一貫して実行できるようにするものだ。

 ITを活用し、全てのプロセスで情報の共有を可能にする。経営者はアイデア作りから製品化までの工程がうまく進んでいるか、あるいは進んでいないかを即座に把握できる。

 我々が得意とするR&D支援ソフトに加えて、ERP(統合基幹業務システム)、MES(製造実行システム)、PLM(製品ライフサイクル管理)といった製品がカバーする領域が含まれる。

研究開発の分野とERPやMESを統合する必要がある、という指摘は以前からあったが、なかなか実現できなかった。その理由は。

 データの種類が異なるところに問題があった。ERPやMESが扱うのは主に構造化されたデータだ。これに対しR&Dの分野では、イメージをはじめ非構造化データを多く扱っている。

 R&Dの分野でも、ユーザーは当社の製品をはじめ様々なツールを使っている。しかし、あくまでも部分的な使い方にとどまっており、R&Dのプロセス全体の効率化につながってはいなかった。

 一方で、経営者からは「新たな製品を早く、効率よく出したい」というニーズが高まっている。このためにもR&Dから商品化までの工程を一括して効率化できる仕組みが必要とされていた。SILMを説明した際に、ステークホルダーからは「一貫した情報を取れるようにしたい」という要望が上がっていた。

SILMというコンセプトを打ち出したのは、アクセルリスにとってのビジネス領域を拡大する狙いもあったのか?

 我々はR&Dの中で、特にR(研究)分野に強みを持つ。D(開発)の一部もカバーしており、ここも広げようとしている。Dの部分を強化するというのは、結果的にERPやMESの製品がカバーする領域に近づくことになる。

 とはいえ、MESなどに本格的に参入する考えはない。そもそもSILMのコンセプトは、我々の製品だけでは実現できない。いわば、他社のERPやMESといった製品を含めた共通のラベルを貼ろうとしている。