ネットワーク業界をにぎわしているOpenFlow/SDN(Software Defined Network)。そのOpenFlowの標準化作業を進めているのがOpen Networking Foundation(ONF)だ。急ピッチで進む技術開発の状況と今後の方向性について、ONFエグゼクティブディレクターのピット氏に聞いた。

(聞き手は河井 保博=日経コミュニケーション編集長、取材日:2012年6月11日)

ダン・ピット氏
写真:新関 雅士

まず、ONFの役割や活動について教えてほしい。

 ONFは研究段階にあったSDNの技術を商用化することを目的に、1年半ほど前に設立された。具体的には、米スタンフォード大学を中心に開発されたOpenFlowの初期段階の規格を利用して、それを商用レベルまで引き上げてきた。メーカーではなく、あくまでもSDNのユーザーが主導して必要な要件を挙げ、議論を進めている。

 そして、このOpenFlowプロトコルの標準化を進める中で、SDNに関連するあらゆる要素を見ている。現時点では必ずしも標準化に至っていない技術も見ている。

必ずしも標準化に至っていない技術というと、具体的には、どのようなものか。

 一つはOpenFlowの上位のAPI(ノースバウンドAPIと呼ぶ)だ。

 OpenFlowを利用したネットワークでは、OpenFlowコントローラーでどのフローをどう制御するかのルールを設定し、それをOpenFlowスイッチに通知する。一方、SDNでは、これとは別にネットワーク全体を制御するアプリケーションがある。ネットワーク機器とは別の一般的なサーバー上で動作するアプリケーションだ。これとOpenFlowコントローラーを連携させるには、何らかのAPIが必要になる。

 通信事業者のサービスやインフラにおいて、OpenFlowとどのようにインタフェースを取っていったらよいか、といった議論も進んでいる。最近は、イーサネット以外の伝送路も視野に入ってきた。具体的には、光ネットワーク、回線交換、そして無線通信だ。例えば光ネットワークでは、信号を載せる波長の切り替えなどをOpenFlowでコントロールするといった具合だ。

通信事業者のネットワークインフラにもSDNが入り込んでいくと。

 多くの事業者が、OpenFlow/SDNには可能性があると見ている。自らのソフトウエア開発でクラウド/データセンターの新サービスを作れるため、サービス開発をスピードアップできるからだ。設備投資や運用コストの削減効果も見込める。

 既にONFには、OpenFlow/SDNのユーザーとしての立場で、多数の通信事業者が参加している。NTTコミュニケーションズ、ドイツテレコム、米ベライゾンはONFの理事(ボードメンバー)だし、そのほかにもKT、フランステレコム、テレコム・イタリアなどがメンバーになっている。

ユーザーという観点では、一般企業(エンタープライズ)も含まれるか。クラウドサービス/データセンター事業者に比べるとSDNには縁遠いように思えるが。

 もちろん、エンタープライズも含まれる。実際、今年の春にはエンタープライズ系の初のメンバーとしてゴールドマン・サックスがONFに加わった。

 とりわけ金融業界では、性能や制御機能の観点から、SDNのような仕組みを強く望んでいる企業が多い。コンプライアンス(法令順守)の観点から、システム/ネットワークごとにオペレーションを切り分けなければならないという要求もある。今は個別のインフラになっているが、SDNがあれば、一つのインフラの上にオーバーレイ型で別々のネットワークを実現できる。