NTTデータは、2009年からTOC(制約条件の理論)のプロジェクト管理手法、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)を社内で展開してきた。2012年3月までに延べ40~50件のプロジェクトに適用。繰り返し性の強いプロジェクトが中心とはいえ、平均2割の工期短縮となっている。

 CCPMでは、意図的に短めの工期を目標設定し、その一方で「バッファ」と呼ぶ余裕日程を設定する(関連記事1関連記事2)。「バッファ管理」という独特な手法によって進捗を視覚化し、リーダーやマネジャーが早めに工期遅れを察知し対処できるようにする。こうしたマネジメント変革を着実に推進するコツは「現場に成功体験を積んでもらう」「マネジャー層と若手それぞれに教育を実施」「推進チームの設置」などだという。

(聞き手は高下 義弘=ITpro


適用や成果の状況は。

(柴山)CCPMに2009年から取り組んでいる。プロジェクトマネジメント・イノベーションセンタはNTTデータの共通技術部門であり、顧客企業向けシステム開発プロジェクトを手がけている各部門に対して、CCPM適用の支援を行っている。

写真●技術開発本部 プロジェクトマネジメント・イノベーションセンタ シニアエキスパート 柴山 洋徳氏(左) 、同センタ 部長 上原 智氏(中)、同センタ 主任 副島 千鶴氏(右)
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図●NTTデータが自社開発し社内で活用しているCCPM用のプロジェクトマネジメントツール「TERASOLUNA Critical Chain Visualizer」の画面例
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 CCPM適用数は、40~50件ある。CCPM適用後の工期実績は、従来手法で計画した工期に比べると、平均して2割短くなる。3割短縮すれば「かなりいい」という感じだ。

 CCPM流のプロジェクトマネジメントを進めるための社内ツール「TERASOLUNA(テラソルナ) Critical Chain Visualizer」も2010年末に社内でリリースした()。このツールによって、プロジェクトのリスクをバッファの量という形で「見える化」できる。

 部長クラスは自部門の複数プロジェクトを概観し、進行が厳しいものが出てきたときは人員などをやりくりする必要がある。CCPMを採用した部長クラスは「複数のCCPM適用プロジェクトの状況を同じ基準で把握でき、リソースマネジメントの質が上がった」という感想を報告している。

普及策や横展開の工夫は。

(柴山)まずプロジェクト内にCCPMの推進チームを置いてもらい、そこに私たちのメンバーが支援に入る。研修教育やファシリテーションという形で現場にノウハウを注入し、プロジェクトを進めながら定着させている。

 適用が順調に進むにつれて「リスクが見える化される」「工期が短縮される」といった効果が見えてくる。この結果、現場で次第に自主的な取り組みも進み、その現場が扱っているほかのプロジェクトにも適用する、という流れが起きていく。

 このような取り組みは一過性のものでは意味がない。だからプロジェクト内に推進チームを置いてもらうことで、現場にノウハウが蓄積し継続するよう図っている。実際、3年前にCCPMを採用したプロジェクトマネジャーは、現在もほかの担当プロジェクトにCCPMを適用している。

(上原)また、私たちは部課長などマネジメント層と、現場の若手社員の2つの層それぞれに適用を働きかけている。

 マネジメント層に対しては社内セミナーや説明会を開いたり、個別に説明に行ったりしている。若手社員に対しては、2011年度から若手社員向け教育研修プログラムに、CCPMの概要を伝えるクラスを設けた。受講を義務づけてはいないが注目度は高く、既に300人くらいが受講している。当社のグループ会社に対しても受講を推奨している。

(副島)若手がCCPMのことを知ってマネジャーに報告する、あるいはマネジャーが若手に受講を勧める、と相互に紹介し合う流れが生まれつつある。

現場にはどう受けとめられているか。

(上原)マネジメント層、若手層どちらも関心が高い。具体的なやり方が提示されていることと、余った期間で品質を高めるなど価値向上のための取り組みができるようになることが、「稼働日に間に合わせるためにはどうするか」という発想にとらわれていた現場を刺激しているようだ。

 また、プロジェクトマネジャーが工数を平準化したり、メンバー間で負荷を分散させたりしやすくなるので、ワークライフバランスという点からも期待されている。というのは、CCPMではバッファの食い潰し度という形で日程の余裕度を視覚化できる。さらにマルチタスクを排除すればするほど、メンバーそれぞれが何をしているのかが見えやすくなって、チーム間で人のやり繰りもしやすくなる。「今週は週末頑張らなくても大丈夫だ」「このチームから人を違うチームに振り向けても大丈夫」といったことが見えやすい。