日本IBMは6月、プライベートクラウドを構築するためのアプライアンス製品「IBM Workload Deployer」の出荷を開始した。これまで「WebSphere CloudBurst」という名称で販売していた製品の名前を変えて機能強化したものだ。米IBMでWebSphere関連のクラウド戦略を担当するチーフアーキテクトのジェイソン・マッギー氏に、同社の戦略や新製品の狙いを聞いた。

(聞き手は、田中 淳=日経コンピュータ

米IBMのジェイソン・マッギー氏

IBMが提供するクラウドの特徴は。

 私が担当しているのは、プライベートクラウドの構築を支援するPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の分野だ。この分野で、当社は大きく3種類の製品またはサービスを提供している。

 まず、顧客の環境に依存しないプライベートクラウド構築支援サービス。二つめは、顧客独自の環境でのプライベートクラウド構築支援サービス。三つめは、プライベートクラウドを支えるソフトウエアソリューションだ。

 我々はミドルウエアの会社として、「WebSphere」製品群を軸として顧客のアプリケーションをいかにクラウドで利用しやすくするかに注力している。その特徴はいくつかのキーワードで表現できる。「標準化」はその一つだ。

 標準化はクラウド分野ではチャレンジでもある。標準化されていない部分もまだ多い。IBMは標準化されている分野では積極的に採用していく。一方、標準化されていない分野では、新たな標準作りに協力していく姿勢を採っている。

 「仮想化」も特徴を表すキーワードだ。リソース共有のために、さまざまなレイヤーで仮想化技術を利用している。ほかに、多数のアプリケーションを適切なプラットフォームで柔軟に運用可能にする、セキュリティなどサービス品質を保つ機能を低コストで利用できる、顧客の環境との統合が容易、導入やテスト、運用など一連の作業をシンプルにできることなども特徴として挙げられる。

それらの特徴は、競合他社も主張しているのではないか。

 その通りだ。問題はこれらをいかに実装し、ユーザーに提供できるかにある。加えて、いま挙げた特徴をすべて備えているかも大切だと考えている。顧客によって、クラウドに求めるニーズは大きく異なるからだ。

 我々が目指すべきPaaSのゴールは4点挙げられる。第1に、アプリケーションの種類に応じて最適化できることだ。PaaS側でアプリケーションに関する知識をもち、そのアプリケーションがWebアプリケーションか、データベース(DB)アプリケーションか、ビジネス・プロセス・マネジメント・アプリケーションかなどを認識し、それぞれのアプリケーションに最適な処理を実行できるようにする必要がある。

 第2に、シンプルに管理可能にすることだ。アプリケーションの多くは複数のソフトウエアで構成する。こうした複数のソフトを、異なるツールで管理するケースは珍しくない。これらを全体として容易に管理できるようにすることが大切だ。

 第3に、アプリケーションのライフサイクル全体を管理できることだ。導入時の設定しかサポートせず、あとはユーザーが管理しなければならない場合もある。そうではなく、設定から運用、アップデートまですべてサポートすべきだ。

 第4に、先ほども挙げたようにサービス品質を維持・向上できることだ。モニタリングなどの機能を含めて組み込む必要がある。

 日本で6月に出荷を開始した新製品「IBM Workload Deployer」は、これらのゴールを目指した製品の一つだ。プライベートクラウドを構築するためのアプライアンス製品で、仮想化したハードウエア環境(仮想サーバーやクラウド環境)を構築し、そこにアプリケーションを載せることができる。従来は「WebSphere CloudBurst」という名称だったが、名前を変えて、プラットフォーム機能を強化した。