米ヒューレット・パッカードは2010年11月、「Instant-On Enterprise」と呼ぶ新ビジョンを発表した。サービス大手EDSやネットワーク機器3Com、モバイル機器のPalm、そしてストレージ大手3PAR。あいつぐ買収は、総合ITプレーヤーとして「Instant-On Enterprise」を支援する準備を整えるためだったという。日本ヒューレット・パッカードの小出 伸一社長に、新ビジョンの狙いや日本での事業展開を聞いた。

(聞き手は玉置 亮太=日経コンピュータ

日本ヒューレット・パッカード代表取締役 社長執行役員の小出 伸一氏
日本ヒューレット・パッカード代表取締役 社長執行役員の小出 伸一氏

「Instant-On Enterprise」とはどのようなビジョンか。

 Instant-On Enterpriseは、テクノロジーをあらゆる面に組み込み、顧客の迅速に変化するニーズにすぐさま対応できる企業や組織を表す言葉だ。ITシステムに限らず、顧客企業のビジネスそのものが、環境の変化に対応できるようになっている状態をいう。

 HPはハードウエアからソフトウエア、サービスまでを総動員して、企業や組織がInstant-On Enterpriseになることを支援する。日本語で「インスタント」というと、何か即席といったイメージがあるかもしれないが、本質は市場のニーズに瞬時に対応できるということだ。

 具体的には四つのソリューション分野を挙げている。アプリケーションや業務プロセスを革新する「Application Transformation」、個別最適になっていたITインフラを統合して迅速なサービス提供を可能にする「Converged Infrastructure」、人やプロセスを含めたインフラ全体の安全性とリスクをマネジメントする「Enterprise Security」、そして情報の収集や管理の手法を見直す「Information Optimization」だ。

ITインフラは「全社で水平統合」

 ITインフラについて言えば、これまではビジネス単位に垂直統合のシステムを作り上げる企業が多かった。これでは迅速で柔軟な対応は難しい。何か新しいビジネスを立ち上げるたびに、ITインフラを一から構築しなければならないからだ。

 やはりITインフラは全社で水平統合の形に作っておくことが重要だ。そうしておけば、ビジネスモデルがどんなに変わったとしてもITインフラで柔軟に対応できる。

 Instant-On Enterpriseは、こうした要素を兼ね備えた企業の姿を一言で表したものだ。これからの企業に求められており、この姿を目指さないとグローバルの競争で生き残れないというメッセージも込めている。

HPが今まで提唱してきたビジョンと、どう違うのか。

 我々がこれまで進めてきた取り組みを集大成した、というのが実際のところだ。ある日突然、何かが変わったわけではない。

 ただ、Instant-On Enterpriseを提供するためのHPのポートフォリオ、つまり製品とサービス、それを届ける組織体制が整った点がこれまでと異なる。EDSと一緒になり、ネットワーク機器大手の3Comやモバイル機器のPalmを買収し、フルポートフォリオを備えた総合ITプレーヤーとなった。

 今までのHPはインフラに特化した製品やサービスに基づくメッセージを発してきた。お客様のビジネス変革に貢献するための体制や準備が、ようやく整ったわけだ。

ITのグローバル化はかつてない勢いで進む

 “インスタント”を実現する道具として、モバイルとクラウドの重要性が特に増している。あらゆるサービスがクラウドから提供され、モバイル機器から利用できるようになっている。

 製品や技術のポートフォリオを拡大してきたのは我々自身、こうした変化を感じていたからだ。フルラインアップでできるようになって初めて、全社のビジネス変革から利用者一人ひとりのワークスタイルの革新までを支援できる。

 顧客企業も変わってきていると感じる。今や、何がなんでもすべてを自社で手作りしなければ、という時代ではない。パッケージやアウトソーシング、クラウドサービスをうまく使いこなす、借りてきて必要なものだけを使う、といった具合に意識が変わってきている。

 特に経営者は強く意識しているのではないか。そうでなければグローバルの競争に勝ち残れないという危機意識を持っている。

 ITのグローバル化は、かつてないスピードで進んできていると実感している。一つの事例が当社だ。日本HPには社員が6000人もいるが、情報システム部門はない。すべての情報システムは米国のデータセンターで動いている。

 情報システムは、今や企業にとって経営戦略そのものだ。HPは170カ国で事業を展開しているグローバル企業として、きちんとしたサポートを提供する。顧客企業が当社のソリューションを使って、タイミングを逃さずInstant-On Enterpriseへなれるよう支援していく。信頼できるパートナー、経営に近い部分を支援できるパートナーになるため、全世界で始めた取り組みだ。